翌日
森ノ宮歌劇団 廊下
運営社員
ありがとうございます、鳳さん。
備品の片づけまで手伝っていただいて……
備品の片づけまで手伝っていただいて……
運営社員
かなり量があったので、おかげで助かりました
えむ
大丈夫です!
あたしも総務のお仕事の勉強になったので!
あたしも総務のお仕事の勉強になったので!
えむ
他にもお手伝いできることがあったら、
なんでも言ってくださいっ!
なんでも言ってくださいっ!
運営社員
あら……ふふ。
なんだか、いつにも増してやる気いっぱいですね
なんだか、いつにも増してやる気いっぱいですね
運営社員
今日はもうあがっていただく時間ですが、
また明日、よろしくお願いします
また明日、よろしくお願いします
えむ
わかりましたっ! お先に失礼しまーす!
運営社員
はい、お疲れ様でした
えむ
(総務のお仕事って、本当にいろいろあるんだなあ)
えむ
(会議のお手伝いとか、施設の備品の管理とか、
会社によっても違うみたいだけど……)
会社によっても違うみたいだけど……)
えむ
(よーし、家に帰ったら、今日メモしたことを
もう一回読み直そうっと!)
もう一回読み直そうっと!)
えむ
(……涼ちゃんは、どんな風に経営の勉強をしたんだろう)
えむ
(今度会ったら、聞いてみようかな)
えむ
………………あれ?
えむ
さっき、こんなところ通ったっけ……?
えむ
あれ? あれれれ?
えむ
あたし、どっちから来たんだっけ??
えむ
……どうしよう。
いろいろ考えながら歩いてたから、
道を間違っちゃったのかも……!!
いろいろ考えながら歩いてたから、
道を間違っちゃったのかも……!!
えむ
ええええっと、じゃあこっちの道は——
えむ
(あれ? あそこにいるのって……)
白虎町
本日はお時間をいただき、ありがとうございました
役員
ああ、構わないよ。それにしても……
役員
桔梗組の解体の件は、残念だったね
えむ
(え…………?)
白虎町
…………
役員
あまり気を落とさずに。
組織を長く運営していく中では、こういうこともあるさ
組織を長く運営していく中では、こういうこともあるさ
白虎町
お心遣い、ありがとうございます
役員
また何か相談に乗れることがあれば言ってくれ。
では、私はこれで
では、私はこれで
白虎町
はい
白虎町
こういうこともある、か……
えむ
(………………桔梗組が、解体って…………)
えむ
(どどどどういうことだろう!?
あたし達、この前公演を見に行ったばっかりだし……)
あたし達、この前公演を見に行ったばっかりだし……)
えむ
(でも……)
えむ
——涼ちゃん
白虎町
…………!
白虎町
鳳さん? どうしてここに……
えむ
えっとね、備品の片づけしてたら、
迷子になっちゃって
迷子になっちゃって
えむ
それでね、さっきの……! えっと……
白虎町
……少し、場所を変えようか
白虎町
ちょうど今の時間、ここのレッスンルームは使われていないんだ
白虎町
それで……鳳さんには、先ほどの会話が聞こえていたんだね?
えむ
ごめんなさい!!
えむ
立ち聞きするつもりはなかったんだけど……
えむ
でも——桔梗組が解体されちゃうって、本当?
白虎町
ああ。先日、上層部の会議でそう決定された
白虎町
——まだ正式な通達はされていないんだ。
だからこのことは他言無用でお願いしたい
だからこのことは他言無用でお願いしたい
えむ
どうして……?
桔梗組の舞台は、あんなにキラキラしてるのに……
桔梗組の舞台は、あんなにキラキラしてるのに……
白虎町
そうか。鳳さんは、桔梗組の舞台を見に行ったんだったね
白虎町
それなら、何か気になることはなかったかい?
えむ
気になること?
白虎町
ああ。たとえば——空席の多さだ
えむ
あ……
えむ
……うん
えむ
こんなにおもしろい舞台なのに、
どうしてだろう?って思ったよ
どうしてだろう?って思ったよ
白虎町
……説明するには、まず桔梗組の成り立ちから
話したほうがわかりやすいかもしれないね
話したほうがわかりやすいかもしれないね
白虎町
少し長くなるが、大丈夫かな?
えむ
うんっ! よろしくお願いします!
白虎町
森ノ宮——そして鈴蘭組には100年にわたる歴史がある
白虎町
長い年月をかけて磨き上げてきた、
森ノ宮の舞台に対する信頼は非常に厚いが——
森ノ宮の舞台に対する信頼は非常に厚いが——
白虎町
一方で、客層が固定化しているという問題があるんだ
えむ
えっと、ファンになった人はいっぱい来てくれるけど……
新しいお客さんは増えてない、ってこと?
新しいお客さんは増えてない、ってこと?
白虎町
その通り。
今はまだ大きな問題は起きていないが、
このままでは緩やかに衰退していくのは避けられない
今はまだ大きな問題は起きていないが、
このままでは緩やかに衰退していくのは避けられない
白虎町
その危機的な状況を打破するために、
2年前に立ち上げられたのが——桔梗組だ
2年前に立ち上げられたのが——桔梗組だ
白虎町
男性のみで構成された桔梗組は、
森ノ宮に新しい風を吹かせ、
新規の客層を獲得する目的で作られたんだ
森ノ宮に新しい風を吹かせ、
新規の客層を獲得する目的で作られたんだ
えむ
そうだったんだ……
白虎町
ただ、桔梗組は歴史が浅い分、団員も若手が多い
白虎町
鈴蘭組に比べた時、完成度で劣る……
舞台ファンの間でそういった評判が出回り、
収益が伸び悩んでいる
舞台ファンの間でそういった評判が出回り、
収益が伸び悩んでいる
えむ
あ……
白虎町
……期待した収益が出せないのであれば、
事業を続けることはできない
事業を続けることはできない
白虎町
そして、さらに悪いことに——
白虎町
桔梗組から、主演をつとめられるような
エース級の役者が次々に抜けてしまったんだ
エース級の役者が次々に抜けてしまったんだ
えむ
えっ!? な、なんで……
白虎町
こういった状況だ、辞めたくなるのも当然だろう
白虎町
厳しい練習を乗り越えても、客席は埋まらない。
そして鈴蘭組と比べられて、嫌味を言われることもある。
そういったことにうんざりした人もいたはずだ
そして鈴蘭組と比べられて、嫌味を言われることもある。
そういったことにうんざりした人もいたはずだ
白虎町
人材不足のこの状況で、桔梗組の評価を上げるのは難しい。
よって——収益が改善する見込みもない。
上層部が桔梗組の解体を決断したのは、正しい判断ではあるんだ
よって——収益が改善する見込みもない。
上層部が桔梗組の解体を決断したのは、正しい判断ではあるんだ
白虎町
……私も、それは理解している。けれど……
えむ
それでも涼ちゃんは——
えむ
桔梗組を、諦めたくないんだよね?
白虎町
……ああ。
この桔梗組の存在は、森ノ宮にとって必要だと思っている
この桔梗組の存在は、森ノ宮にとって必要だと思っている
白虎町
粗削りな部分も魅力として、若年層に支持されている。
新しい客層にアプローチするという意味では、
一定の成果を上げられているんだ
新しい客層にアプローチするという意味では、
一定の成果を上げられているんだ
白虎町
それに残った桔梗組の団員も、
男子組の学生達も皆、とても熱量が高い
男子組の学生達も皆、とても熱量が高い
白虎町
だからこそ、残る可能性を探したいと思っているんだが……
えむ
………………
えむ
(守りたいものとか、目指したいところがあるのに、
うまくいかない……)
うまくいかない……)
えむ
(ちょっとだけ、昔のフェニックスワンダーランドと似てるかも)
えむ
——涼ちゃん!!
白虎町
わっ……!?
えむ
あたしも、お手伝いしていいかな!!?
白虎町
え……
えむ
えっと……あたしも、桔梗組を残したいっていう
涼ちゃんの気持ちはすごくわかるんだ
涼ちゃんの気持ちはすごくわかるんだ
えむ
桔梗組の舞台はすごい迫力で、鈴蘭組とも全然違ってて……
えむ
空席もあったけど、見にきてるお客さん達は
みんなすごく楽しんでるなって思ったの!
みんなすごく楽しんでるなって思ったの!
えむ
あ……! 森ノ宮のことなのに、
あたしがこんなこと言っちゃってごめんね
あたしがこんなこと言っちゃってごめんね
えむ
でも——
えむ
フェニックスワンダーランドでも、
昔、同じようなことがあったんだ
昔、同じようなことがあったんだ
えむ
お客さんが減っちゃって……
いろんな新しいことをしたけど、すぐには結果が出なくて
いろんな新しいことをしたけど、すぐには結果が出なくて
白虎町
……………………
えむ
それにね、あたしも経営とか、
運営のこととか勉強してるから……
運営のこととか勉強してるから……
えむ
ちょっとでも、涼ちゃんの役に立てたらって思うんだ
えむ
だから……お手伝い、させてもらえないかな?
白虎町
鳳さん……
白虎町
……仲間がいるというのは、心強いな
白虎町
ありがとう。こちらこそ、よろしく頼むよ
えむ
……! うんっ!
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