2カ月後
森ノ宮歌劇団 劇場
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生徒A
『——なあ。オレと一緒に舞台をやってみないか?』
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生徒B
『は……? なんで僕が?』
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生徒A
『オレ達の未来は、生まれた時に決まってる。
貴族に生まれるっていうのはそういうことだ』
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生徒A
『でもな。だからって、ずっと縛られ続けるのは、
つまらないって思わないか?』
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生徒B
『……それは……』
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生徒A
『舞台の上なら、オレ達はなんにだってなれる!
お前なら、きっとその楽しさがわかるはずだ』
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観客達
…………ねえ。
この役者さん達って、もしかして学生さん?
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観客達
たぶんそうだね。今まで見たことないし……
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観客達
そっか……
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観客達
————なんか、すっごい引き込まれるな
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えむ
…………!
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教師
『こら、お前達!! 消灯時間はとっくに過ぎているぞ!』
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生徒A
『うわ、しまった! みんな、逃げるぞ!!』
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生徒B
『だからこんな深夜に稽古なんて
やめようって言ったのに!』
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教師
『おい、待たんか!』
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観客達
へえ……あの役者さん、
こんなコミカルな演技もできるんだな
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観客達
ふふ、ほんとね。
これまでとイメージは違うけど、私は好きだな
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生徒B
『——ついに初公演だな』
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生徒A
『ああ。ようやくここまで漕ぎつけた』
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生徒B
『さすがの君でも緊張してるか?』
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生徒A
『まさか! むしろ今までで一番ワクワクしてるよ』
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生徒A
『誰の記憶にも残る、最高の舞台にしてやろう、って』
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えむ
(これで……舞台は終わり)
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えむ
(お客さん達は——)
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えむ
…………!
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白虎町
……すごいな。熱烈なスタンディングオベーションだ
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えむ
……っ、うん……!
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アナウンス
『——当公演はこれで終了となります。
お帰りの際は、お手回り品にご注意ください』
森ノ宮歌劇団 中庭
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これが桔梗組の新しい舞台……!
素晴らしかったな!
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貴族の子弟ばかりが通う学園で、
落ちこぼれの生徒達が劇団を結成する——
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団員達の中で一番演技が下手だと思われていた主人公が、
実は身分を隠して通っていた隣国の王子だった……
という展開が面白かったね
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ああ! それに、役者達の熱演に心を打たれた
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寧々
うん……。ベテランの劇団の人達は、
やっぱりすごかったけど……
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寧々
学生の人達も、全然負けてなかったね
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そうだね。もちろん、技術面で粗削りな部分は
あるかもしれないけれど——
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そこも含めて、観客達に『応援したい』と思わせる
魅力になっていたんじゃないかな
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そうだな! オレもいい刺激をもらえた!
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寧々
…………
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寧々?
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寧々
あ……
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寧々
えっと、どうせならえむと白虎町さんにも
感想を伝えたいなって思って……
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おお、そうだな!
関係者席に座っていたはずだが、今どこに——
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えむの声
みんな~!
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白虎町
やあ、久しぶりだね
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えむ
桔梗組の新しい舞台、どうだった!?
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とんでもなくよかったぞ!!
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以前の桔梗組の舞台は、重厚な世界観をたしかな技術に支えられた
アクションや演技、歌唱力で表現していたが……
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今回の舞台は、そこに収まらない熱さが感じられた
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うん。実力のある劇団員達が、
納得感のある演技で世界観をしっかりと支えている一方で——
学生達の勢いのある熱演が、観客の目を強くひきつける
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お互いのよさが溶け合って、より魅力的な
舞台を作り上げている……そんな印象だったよ
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寧々
なんていうか、目の前でどんどん
成長していってる感じがあって……すごく見ごたえがあったな
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えむ
…………!
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えむ
……よかった……!
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それにしても……森ノ宮での修行中から、
えむが何やら忙しそうにしているのは気づいていたが
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まさか、ここまで大掛かりな
企画に関わっていたとはな
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えむ
えへへ、言ってなくてごめんね
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えむ
(経営会議で、あたし達のプレゼンが通ってから……。
今日まで、ずーっとドキドキだったな)
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えむ
(でも——)
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観客達
面白かった~! なんていうかもう、全員推したい!!
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観客達
わかる! 学生さんであれだけレベル高いってすごいよね
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観客達
ね! しかもどんどん成長していきそうだし……
チケットも買えない値段じゃないから、また見に来ちゃおうかな
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えむ
お客さん達、みんなニコニコしてるね
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白虎町
——ああ
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白虎町
先ほど聞いた報告によると、
チケットは千秋楽まですべて完売しそうだ
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えむ
本当っ!?
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白虎町
ああ。それに、舞台を見た人の感想が拡散された結果——
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白虎町
鈴蘭組のファンの間でも、
桔梗組に興味を持ってくれる人が少しずつ増えてきているそうだ
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白虎町
鈴蘭組と比べるのではなく、
また違った魅力を持った劇団として
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えむ
……! そうなんだ!
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えむ
森ノ宮をもとから好きな人も、
新しく好きになってくれた人も……
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えむ
どっちにも喜んでもらえたって思っていいのかな?
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白虎町
そう考えていいと思う。
ただ……まだまだ問題も多い
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白虎町
上層部の中には、物珍しさで話題になっているだけだと
懐疑的な見方もある
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白虎町
今回の成功を一時的なもので終わらせないように、
努力し続けていかなければ
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えむ
えへへ、涼ちゃんやる気いっぱいだね☆
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えむ
そんな涼ちゃんに、もっともーっとがんばれる
おまじないを教えてあげる!
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白虎町
おまじない?
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えむ
うん! いくよ——
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えむ
わんわんわんだほーーい!!
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白虎町
鳳さん、今のは……?
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えむ
これをやると、元気が出たり、
大変なときもがんばるぞ!って気持ちになれちゃうんだ
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えむ
これからもいっぱいいっぱい、
越えていかなきゃいけないことがあるだろうけど——
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えむ
でもね、涼ちゃんならきっと大丈夫!
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白虎町
——やっぱり君はとても面白いね
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白虎町
今後君がどんな夢を描いて、実現していくのか楽しみだよ
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えむはうちの劇団の夢担当だからな!
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寧々
ちょっと。なんであんたがドヤ顔なの
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そういう寧々も、顔が緩んでいるけれどね
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寧々
う……。
……だって仲間が褒められたら、普通に嬉しいでしょ
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えむ
(涼ちゃんも、司くん達も、お客さんも……
みんなニコニコだな)
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えむ
(……あたし、やっぱりこの景色が大好き)
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えむ
(みんなが楽しそうで、きらきら笑顔でいてくれるこの景色が)
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えむ
(みんなが笑顔になるには、今回みたいにたくさん
乗り越えなきゃいけないこともあって……)
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えむ
(きっとまた、もうダメかもしれないって思うときも
くるかもしれない)
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えむ
(それでも……)
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えむ
——最後まで、諦めない人でいたいな
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ん? えむ、今何か言ったか?
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えむ
ううん☆ なんでもない!