司
(狩人の言葉をきっかけに、怪物は向き合うことになる)
司
(——自分という、異質な存在に)
狩人
『怪物は人間に化けて、皆さんの一員のように振舞っている。
しかし、その本性はどこまでも人間とは相いれません』
しかし、その本性はどこまでも人間とは相いれません』
怪物
『……そうだな』
怪物
『俺は、面白いことが好きだ。
だから人間にとって危険なことでも、
傷つけるようなことでも……なんでもやる』
だから人間にとって危険なことでも、
傷つけるようなことでも……なんでもやる』
怪物
『今までも、ずっとそうだった。
見た目を人間に似せても、中身までは変わらない』
見た目を人間に似せても、中身までは変わらない』
怪物
『だが……それが“俺”だ』
怪物
『そういう風に生まれたものを、
どうやって変えられる?』
どうやって変えられる?』
怪物
『俺は…………』
怪物
『俺は、望んで“怪物”に生まれたわけじゃない』
榊
(普通なら、もっと激情に駆られるか
それを抑えこんでる演技をしそうなものだけど……)
それを抑えこんでる演技をしそうなものだけど……)
類
——この場面は、あえて感情を出さずに演じてみてほしいんだ
司
感情を出さずに、というと?
類
そうだね……。
この怪物は、自分自身に絶望しているんだ
この怪物は、自分自身に絶望しているんだ
類
自分の本質からは、絶対に逃げられない。
根本から変えることもできない
根本から変えることもできない
類
悲しんでも、声を荒げても——周りと同じにはなれない
類
それを、自分自身が一番深く理解しているんだよ
司
(わかり合える者がいない孤独。
怪物にとっては、ずっと傍にあったものだ)
怪物にとっては、ずっと傍にあったものだ)
司
(仕方がないことだと諦めているはずなのに……
それでも、ここでは躊躇ってしまう)
それでも、ここでは躊躇ってしまう)
怪物
『……師匠や街の人間を傷つけるのも、
時間の問題だったからな』
時間の問題だったからな』
怪物
『いっそのこと、この夜闇に紛れて街を離れるか?』
怪物
『だが…………』
???
『——待て』
怪物
『狩人か……。
こんな夜中まで怪物探しとは、精が出るな』
こんな夜中まで怪物探しとは、精が出るな』
狩人
『……ああ、そうだ。
そして今、ようやく正体を突き止めた』
そして今、ようやく正体を突き止めた』
狩人
『月明かりもない夜に、
明かりも持たず歩ける人間はいないからな』
明かりも持たず歩ける人間はいないからな』
怪物
『…………』
狩人
『お前はここで殺す。
……怪物によって傷つけられた、無辜の人々に誓って』
……怪物によって傷つけられた、無辜の人々に誓って』
怪物
『……ははは、なるほど!
それもいいかもしれないな』
それもいいかもしれないな』
怪物
『俺が死んで世界が平和に回るなら、安いものだ』
吟遊詩人
『——待ってくれ!』
怪物
『っ、師匠!? なぜここに……』
吟遊詩人
『なぜもなにも!
弟子の様子がおかしければ、心配するだろ!』
弟子の様子がおかしければ、心配するだろ!』
狩人
『……どいてください』
狩人
『それはあなたの弟子ではなく、
人の振りをしただけの怪物ですよ』
人の振りをしただけの怪物ですよ』
吟遊詩人
『怪物かもしれませんが、
この子は僕の大事な弟子です』
この子は僕の大事な弟子です』
吟遊詩人
『そして、人々を笑顔にできる吟遊詩人の卵でもあります』
怪物
『……っ、俺は…………』
狩人
『世迷い事を』
狩人
『その怪物がもしもまた人を傷つけたら、
あなたにその責任が取れますか?』
あなたにその責任が取れますか?』
吟遊詩人
『それは……っ!』
怪物
『……たしかに、普通の人間では俺を止められないだろうな』
怪物
『俺は、一度“楽しい”と思ったら止まらない。
自分の欲をどこまでも優先してしまう』
自分の欲をどこまでも優先してしまう』
怪物
『だから、そうなったときは…………』
怪物
『お前が、俺を殺せばいい』
狩人
『……何?』
怪物
『俺は、どこまで行っても怪物だ。
それは変えられない』
それは変えられない』
怪物
『だが、それでも……』
怪物
『怪物だと知っても、
俺を認めてくれる者がいるなら』
俺を認めてくれる者がいるなら』
怪物
『俺は…………まだ、ここに居たい』
怪物
『お前が言うように、俺は人間を傷つけた』
怪物
『どうせ分かり合えない存在に、興味はない。
だから何をしてもいいと思っていた。だが……』
だから何をしてもいいと思っていた。だが……』
怪物
『今は、俺の歌を聴いて笑う人間を見ると、
胸の辺りがあたたかくなる』
胸の辺りがあたたかくなる』
怪物
『次はもっと上手くなって、驚かせてやりたいと、
そう思うようになった』
そう思うようになった』
怪物
『俺は……人間を愛おしいと思う』
狩人
『怪物風情が、何を——』
怪物
『信じられないだろうな。だが、俺は本気だ』
怪物
『信じてもらうためなら、なんでもする。
償いが必要なら、足でも目でもお前にやろう』
償いが必要なら、足でも目でもお前にやろう』
怪物
『だから……チャンスをくれないか』
吟遊詩人
『ぼ、僕からもお願いします!』
寧々
(……狩人にも、自分の信じる正義がある)
寧々
(そう簡単には引けない。だから——)
狩人
『認められませんね』
吟遊詩人
『っ、銃……!?』
狩人
『足や目をくれてやる?
そんな程度で、償いになると思うのがおこがましい』
そんな程度で、償いになると思うのがおこがましい』
狩人
『——消えろ』
怪物
『ぐっ……!!』
狩人
『避けないのですか?
次は足ではなく、心臓を狙いますよ』
次は足ではなく、心臓を狙いますよ』
吟遊詩人
『や、やめて!
本当に死んじゃう……!!』
本当に死んじゃう……!!』
怪物
『…………いいんだ、師匠』
怪物
『信じてもらえるまで、何発でも受けよう』
狩人
『……っ!』
怪物
『殺してもいい。
俺が死ねば、平和になるというのはその通りだからな』
俺が死ねば、平和になるというのはその通りだからな』
狩人
『お前は…………』
狩人
『……足を出しなさい。傷の手当てをします』
怪物
『え……』
狩人
『怪物に心があるのか、私は知りません。
お前がどれだけ本気で改心したのかも』
お前がどれだけ本気で改心したのかも』
狩人
『ですから、暫くこの街に滞在することにします』
狩人
『その言葉が真実かどうか、
見極められるその時まで』
見極められるその時まで』
怪物・吟遊詩人
『…………!』
吟遊詩人
『♪———— ♪————』
吟遊詩人
『——これで、怪物の物語は終わり』
怪物
『変われない怪物が、その後も人に混じって
平和に暮らせたのかどうかは、誰も知らない』
平和に暮らせたのかどうかは、誰も知らない』
怪物
『何もかもが解決して、めでたしめでたし、
とはならなかっただろう』
とはならなかっただろう』
吟遊詩人
『それでも、ひとつだけ確かなのは——』
怪物
『孤独だった怪物は、もういないことだ』
ベテラン演出家
うーん、これはなかなか……予想外でしたね
榊
ええ。正直、もっとエンターテインメント
ど真ん中の方向性で来るかと思ってました
ど真ん中の方向性で来るかと思ってました
トム
『方向性としては、大人も楽しめるおとぎ話だね』
トム
『孤独で身勝手だった怪物の成長や、
それを取り巻く人間達の善性が
とてもリアルに描けていたと思うよ』
それを取り巻く人間達の善性が
とてもリアルに描けていたと思うよ』
ベテラン演出家
そうですね。
しかし、これをアークランドで上演するとなると——
しかし、これをアークランドで上演するとなると——
司
……む。どうやら講評が
かなり盛り上がっているようだな
かなり盛り上がっているようだな
寧々
うん。何話してるかまでは聞こえないけど……
えむ
——あ! 今、おいでおいでってされたよ!
類
どうやら結論がまとまったようだね。
行ってくるよ
行ってくるよ
ベテラン演出家
えー、お待たせしました。
演出家コースの講評を始めます
演出家コースの講評を始めます
類
よろしくお願いします
ベテラン演出家
まず今回のショーでは、心理描写の繊細さが
高く評価されました
高く評価されました
ベテラン演出家
童話のような世界観でありながら、
不条理な現実と、そこから生まれる孤独や葛藤を
観客につきつけてくる——
不条理な現実と、そこから生まれる孤独や葛藤を
観客につきつけてくる——
ベテラン演出家
ここが、もっとも大きく評価の割れた点でした
類
……はい
榊
率直に言うと、アークランドで上演するには
ちょっとばかり生々しい部分が目立つね
ちょっとばかり生々しい部分が目立つね
榊
題材自体は面白かったけど、料理の仕方がまだ甘い
類
はい
トム
『——確かに、いろいろとアンバランスではあったね』
トム
『だけど、僕は好きだよ。
真剣で、熱さがあって、とても面白かった』
真剣で、熱さがあって、とても面白かった』
類
『……ありがとうございます』
類
『このワークショップのおかげで、
本当にたくさんのことを学ぶことができました』
本当にたくさんのことを学ぶことができました』
類
『今回は、観客の求めるものとのバランスを
取りきることができませんでしたが——』
取りきることができませんでしたが——』
類
『この経験は、必ず次のショーに活かします』
トム
『ふふ。焦らなくていいと思うよ』
トム
『君のショーは、君の長い人生が作るものだ』
トム
『そして今日のショーは、
君のこれまでの日々が詰まった素晴らしいものだった』
君のこれまでの日々が詰まった素晴らしいものだった』
トム
『そしてこれから、さらに深みを増していくはずだ。
楽しみにしてるよ、ルイ』
楽しみにしてるよ、ルイ』
類
『——はい。頑張ります』
司
あの表情を見るに、満足のいく結果だったようだな
寧々
……そうだね
榊
…………
???
その『カミシロくん』って子……
俺の言葉を理解してくれてたんだ
俺の言葉を理解してくれてたんだ
大原監督
ああ。
基本的には舞台演出をやりたいらしいから——
基本的には舞台演出をやりたいらしいから——
大原監督
そっちの分野がメインのお前とは、
いずれどっかでぶつかるかもしれないな
いずれどっかでぶつかるかもしれないな
榊
……いいじゃん、神代くん
榊
おかげで、面白くなりそうだ