宮益坂女子学園 2年A組
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先生
それでは、HRは以上です。
予習と復習を忘れずにね
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(今日は課外活動はないから……
児童館ボランティアのポスターを作って帰ろうかな)
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(それから、今週ある介護ボランティアの準備もしよう)
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(初めて行く施設だから、
雰囲気とか大切にしてることを調べておかないと)
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(……いろんなボランティアをするようになって、
毎日充実してるな)
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(新しいこと、始めてみてよかった)
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(背中を押してくれたお母さんに、感謝しないとな)
数カ月前
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咲希
はるかちゃん、この前のテスト学年1位だったんだよね!?
すごいなー!
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ふふ。たまたま勉強してたところが出ただけだよ
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一歌
でも桐谷さん、いつもちゃんと予習と復習してるよね?
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咲希
たまにノート見せてもらうもんね!
アタシ、練習で疲れて後回しにしちゃう時もあるから、尊敬だよ~
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一歌
私も……。それで、今回あんまり数学の点数よくなくて
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次のライブのために頑張ってるって、言ってたもんね
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咲希
うんっ! アタシ達の演奏が
お客さんの心に届くように、まだまだ練習しなきゃ!
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……そうだ。私でよければ、
テストの問題でわからないところ教えようか?
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一歌
えっ……いいの?
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うん。私もテストの復習したかったから
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咲希
わあ……ありがとう! じゃあ、3人で勉強会だね!
おやついっぱい買ってこよーっと♪
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一歌
もう、勉強がメインだからね?
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咲希
わかってるもーん♪
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(——うん。これくらいまとめれば、
問題パターン別のポイントをスムーズに教えられそう)
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(……すごいのは、天馬さん達なんだけどな)
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(お客さんに最高の演奏を届けるために、
いつも頑張ってて……)
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(私には、もう……)
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遥の母
遥、今ちょっといい?
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あ……うん、大丈夫だよ。
どうしたの?
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遥の母
実は……夕刊に、遥が大好きなお姉さんの記事がのってたの。
覚えてる? 遥をとびきりの笑顔にしてくれたお姉さん
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……!
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……うん、覚えてる
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(……笑顔だけじゃない。
お姉さんは私に、憧れと夢をくれた)
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(……私はもう、お姉さんに顔向けできないけど……)
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(でも——)
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遥の母
……読むかどうかは、遥が決めてね
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(少しだけ、なら……)
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(……『“引退した元アイドル、
舞台を降りてもなお、人々に希望を届け続ける”』……)
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(『……アイドルを引退後、
地方ラジオ局のアナウンサーとなった彼女は、
その活躍の場を小さなブースに留まらせることなく』——)
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(『介護老人福祉施設や幼稚園、温泉施設など、
その華やかな経歴を活かしてステージに立ち
地域に密着した活動を続け』)
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(『花が咲いたような笑顔と歌声で、
多くの人々に勇気と希望を与え続けている』……)
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……そっか
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遥の母
……すごく、お姉さんらしいよね。
写真も、子供達に囲まれて笑ってて
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(……本当に、花みたいな笑顔だな。
心の中を照らしてくれるような……)
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(お姉さんは今でも、たくさんの人に希望を届けてるんだ)
43
……すごいな、本当に
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私も、こんな風に……なりたかったな
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遥の母
そう思うなら……また、目指してみてもいいんじゃない?
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えっ……
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遥の母
この記事を見て、思ったの。
誰かを笑顔にする方法は、たくさんあるんだなって
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遥の母
だったら……遥にぴったりの道も、見つかるかもしれないでしょ?
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あ……
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(……考えたこともなかったな。
アイドル以外の道で、希望を届けようなんて)
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(でも……)
52
(届けようとして、また奪うことになったら……)
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遥の母
……ごめん、困らせちゃったかな。
すぐに答えを出さなくてもいいの
54
遥の母
私は、どんな道を選んでも応援するから。
遥の想いを大切にして、ゆっくり考えてみて
55
(……私にできることなんて、もうないかもしれない)
56
(でも、もしほんの少しでも可能性があるなら……)
57
(あれから、いろんなボランティアに
参加するようになったけど……)
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(……やっぱり、私がお姉さんみたいにできるとは思えない)
59
(でも、少しでも誰かの役に立てるのは嬉しいし、
やりがいもあるから)
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(今は……目の前の人のために、できることをしよう)
数日後
介護施設
61
今日はよろしくお願いします
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おばあさんA
こんなに可愛らしい学生さんが遊びに来てくれて、嬉しいわあ。
話し相手がいなくて、退屈だったのよ
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ボランティアの学生
ふふ。それじゃあ、今日はたくさん話しましょうね
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あとでクイズ大会もするので、楽しみにしててください
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(……レクリエーションの時間までは、
自由に施設の方と話して回るんだったよね)
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(ここは任せてよさそうだから、私は他の人と——)
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おばあさんB
…………
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(……あれ?
そういえばあの車いすの人、ずっとひとりで窓際にいるな。
具合が悪いとかじゃないといいけど……)
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介護士
——伸子さんね、いつもああして空を見てるのよ
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え……何かあったんですか?
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介護士
……少し前までは、とても明るい方だったの。
運動がお好きで、施設の周りをよくお散歩していらしたわ。
でも、病気にかかって……足が動かなくなってしまったの
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足が……
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介護士
それから、すっかり気落ちしてしまったみたいで。
身体を動かすのが、生きがいだったんでしょうね
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そう、だったんですね……
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(……生きがい、か……)
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——こんにちは、伸子さん。
お話してもいいですか?
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伸子
…………
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…………綺麗な青空ですね
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伸子
…………
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伸子
…………ええ
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伸子
……でも、ひどいわ
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伸子
こんなに綺麗なのに、もうこの下を自由に歩けないんだもの
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(あ…………)
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…………そうですね
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——それなら、一緒に外へ出ませんか?
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伸子
え……
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私が、行きたい場所へお連れします
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伸子
——そうね。じゃあ……
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伸子
車いすをお願いできる?
数週間後
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——こんにちは、伸子さん
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伸子
あら……また来てくれたのね。
待っていたのよ
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えっ?
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伸子
あなたと一緒にでかけたくて
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伸子
……私ね。昔から、旅をするのが好きだったの
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伸子
星に手が届きそうなくらい、空に近い丘へ登ったり、
美しい花畑を探しに、洞窟を抜けたり……
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伸子
この足で、たくさんの新しい景色に会いに行ったのよ。
とっても、楽しかったわ
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……そうだったんですね
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伸子
だから……足が動かなくなった時は絶望したわ。
もう、この先に楽しみなんてないって思った
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伸子さん……
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伸子
……でもね。あなたとのお散歩は、
ひとりでお散歩するよりもたくさんの出会いがあったわ
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え……
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伸子
あなたのおかげで——
少しだけ、生きるのが楽しみになったのよ
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(……私、が……)
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(……でも、私は……)
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伸子
——遥ちゃん、ありがとう。
私に希望をくれて
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伸子
あなたに出会えて、よかったわ
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あ……
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……こちらこそ、ありがとうございます
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