翌日
彰人
♪————! ♪——————!
観客達
『お。昨日いたあいつ、また歌ってるな』
観客達
『ちょっと聴いてくか?
——あ、けどあっちでHANDSが歌うってよ!』
——あ、けどあっちでHANDSが歌うってよ!』
観客達
『マジ!? 行こうぜ!』
彰人
♪——————~~~!
彰人
(前より、足を止めて聴いてくれる客も増えたが……)
彰人
(まだ、他のチームに持っていかれてる)
彰人
——っ、もう1回……!
数日後
彰人
♪————! ♪————————!!
観客達
『お。あいつ、今日もいるぞ』
観客達
『ほんとだ。
今日のは……英語じゃねえな。日本語の歌か?』
今日のは……英語じゃねえな。日本語の歌か?』
社長
…………
彰人
(ここ何日か、あれこれ試してみたが——)
彰人
(英語より、日本語で歌うほうが反応がいい)
彰人
(発音とかリズムの取り方に慣れてる分、
感情を乗せやすいからか?)
感情を乗せやすいからか?)
彰人
(ただ——)
観客達
『あの人の歌ってた曲、ノりやすくてよかったね!』
観客達
『だな。あの歌、何語だろ?』
観客達
『わかんなーい! なんかリズムは面白かったけど~』
彰人
(……やっぱり、刺さりきらねえか)
彰人
(そうだよな……。
知らない曲を、歌詞が伝わらねえ状態で聴くんだ)
知らない曲を、歌詞が伝わらねえ状態で聴くんだ)
彰人
(それでも観客をわかせるには、どうしたらいい?)
彰人
(もっと感情を強調してみるか?
けど、やりすぎるとバランスが崩れちまうし……)
けど、やりすぎるとバランスが崩れちまうし……)
彰人
——もう一度だ
数時間後
彰人
♪————! ♪————!
彰人
♪————————……っ!
彰人
ぜぇ、はぁ、はぁ……ゲホッ……!
彰人
(クソ……さっきから、全然良くなってる感じがしねえ)
彰人
(英語でも、日本語でも……
どっかで躓いて、先へ進めなくなる)
どっかで躓いて、先へ進めなくなる)
社長
——水だ。そろそろ休んだほうがいい
彰人
あ……ありがとうございます
社長
そこのグローサリーでサンドイッチを買ってきた。
これは君の分だ
これは君の分だ
彰人
いや、オレはまだ——
社長
朝から歌いっぱなしだろう。
食べなくとも、30分は休んでもらう
食べなくとも、30分は休んでもらう
彰人
……わかりました
彰人
じゃあ……いただきます
社長
ああ
彰人
………………
彰人
(この人……オレが歌ってる間は、
ほとんど付きっきりなんだよな)
ほとんど付きっきりなんだよな)
彰人
(スマホとかパソコンで
仕事の連絡してるとこは見かけるが——)
仕事の連絡してるとこは見かけるが——)
彰人
あの……食事とか、明日からは自分で買いに行きます
社長
なぜ?
彰人
なぜ、って——
彰人
忙しいと思いますし、まだ契約してるわけでもないのに
あれこれしてもらうのも申し訳ないんで
あれこれしてもらうのも申し訳ないんで
社長
気にすることはない
彰人
いや、でも……
社長
いいんだ。僕は、真剣に音楽をやる人間を支えたくて、
この仕事をやっているのだから
この仕事をやっているのだから
社長
何か、おかしなことを言ったか?
彰人
あ、いや……
そういう話、初めて聞いた気がしたんで
そういう話、初めて聞いた気がしたんで
彰人
(そういえば……)
彰人
(オレ達のことは面談で話したが……
この人のことは、ほとんど知らねえな)
この人のことは、ほとんど知らねえな)
彰人
この仕事を始めようと思ったきっかけとか、
何かあるんですか?
何かあるんですか?
社長
……特に聞いても楽しいものではないと思うが
社長
ただ……そうだな。
君にも少し、関係はあるかもしれない
君にも少し、関係はあるかもしれない
彰人
オレに……?
社長
前に少し話したかもしれないが——
僕も昔、音楽をやっていたんだ
僕も昔、音楽をやっていたんだ
社長
そして同じチームの中に、
とんでもなく才能のある男がいてね
とんでもなく才能のある男がいてね
彰人
そんなにすごい人だったんですか?
社長
ああ。僕は元々、彼の影響で歌い始めたんだ
社長
音楽への情熱と向上心がずば抜けていて……
一緒に歌っていると、自分ももっと上手くなりたいと思わされた
一緒に歌っていると、自分ももっと上手くなりたいと思わされた
社長
このままいけば、きっと彼は世界レベルのアーティストになる。
……そのはずだったんだ
……そのはずだったんだ
社長
けれど、上を目指すあまりに——彼は、自分を追い詰めすぎた
彰人
……喉を壊した、とかですか?
社長
いいや。体ではなく、先に心が限界を迎えてしまってね
社長
ある日突然、歌えなくなった。
まるで、すっかり燃え尽きてしまったように——
まるで、すっかり燃え尽きてしまったように——
社長
長く苦しんだあと、彼は音楽の道を離れたよ。
その時、僕は初めて知ったんだ
その時、僕は初めて知ったんだ
社長
真剣に音楽に向き合えば、
こうなってしまう可能性は——誰にでもあるんだと
こうなってしまう可能性は——誰にでもあるんだと
彰人
…………
社長
ただ……そうだな。
君にも少し、関係はあるかもしれない
君にも少し、関係はあるかもしれない
彰人
……関係あるっていうのは、
その人が、オレと似てるからですか?
その人が、オレと似てるからですか?
彰人
RAD BLASTの後、前みたいに歌えなくなったオレと
社長
……ああ、そうだ
社長
だから、危ういと思った。
今は歌えていても、同じ道をたどるかもしれないと
今は歌えていても、同じ道をたどるかもしれないと
彰人
けど——その人とオレは、別の人間です
彰人
どれだけ似てても、オレはその人と同じにはなりません
社長
…………
彰人
オレは一度、全力で走れなくなりました。
……自分でも情けねえって思ったし、仲間にも心配かけた
……自分でも情けねえって思ったし、仲間にも心配かけた
彰人
それでも、オレは——
歌をやめるなんて、思ったことはない
歌をやめるなんて、思ったことはない
彰人
……歌に出会って、誓ったんです
彰人
絶対に、この夢を手放したりしねえ。
バカにされたり、才能がねえって言われても関係ない
バカにされたり、才能がねえって言われても関係ない
彰人
何があっても、仲間と夢を叶えるって——そう決めた
彰人
この気持ちは、絶対に変わりません
社長
——ああ。
君の歌には、それだけの覚悟が宿っている
君の歌には、それだけの覚悟が宿っている
社長
ただひとつ、伝えておきたいのは……
情熱の火は、人をどこまでも突き動かす。とても強い力だ
情熱の火は、人をどこまでも突き動かす。とても強い力だ
社長
扱いを間違えれば、本人の身を滅ぼしてしまうほどに
彰人
それは……そうですね
彰人
けど、オレは——
社長
——だからこそ僕は、そうならないように
アーティスト達をサポートしたい
アーティスト達をサポートしたい
彰人
え……
社長
——これが、君を気に掛ける理由だ。
たとえ契約をしていなくとも、ね
たとえ契約をしていなくとも、ね
彰人
……あの、それなら……
彰人
ひとつ、相談してもいいですか?
社長
勿論
彰人
実は、今——
社長
……なるほど。言語の壁の問題か
彰人
はい。英語で歌うと、感情が乗り切らねえし、
日本語で歌うとリリックの意味が通じなくなる……
日本語で歌うとリリックの意味が通じなくなる……
彰人
何度やっても、よくなってる感じがしないんです
社長
ふむ……。
英語に限らず、母国語以外を短期間で
完璧にマスターするのは難しい
英語に限らず、母国語以外を短期間で
完璧にマスターするのは難しい
社長
そして、意味の通じない日本語のリリックで
観客の足を止めさせるのも、難易度が高い
観客の足を止めさせるのも、難易度が高い
彰人
……ですよね
社長
ただ——君が目指すのは、
どちらかのハードルを飛び越えることだろうか?
どちらかのハードルを飛び越えることだろうか?
彰人
え……
社長
大事なのは、目的地にたどり着くことだと僕は思う
彰人
目的地……
社長
——すまない、取引先からの電話だ。少し席を外す
彰人
(目的地にたどり着く……)
彰人
(どういう意味だ……?)
彰人
(オレが目指してんのは、
オーディエンスを最高に盛り上げること……)
オーディエンスを最高に盛り上げること……)
彰人
(そのために、英語を完璧にするか
日本語で感情を押し出すかで悩んで——
どっちの道も、今は難しいってわかった)
日本語で感情を押し出すかで悩んで——
どっちの道も、今は難しいってわかった)
彰人
(けど……)
社長
ただ——君が目指すのは、
どちらかのハードルを飛び越えることだろうか?
どちらかのハードルを飛び越えることだろうか?
彰人
(……この考え方が、そもそも違うってことか?)
彰人
(何か、別の方法で目的地に行けたら——)
彰人
そうか。もしかしたら——!
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