1
瑞希
『……正直、この問題に正解はないんじゃないかって思うんだ』
2
瑞希
『それに……まふゆとまふゆの家族のことだから、
ボク達が口出しできる問題じゃないってことも』
3
『……うん』
4
絵名
『その上で、ふたりで考えてみたんだけど——』
5
絵名
『……本当なら、奏が言うような形が一番だとは思うんだ』
6
絵名
『お互いに、自分の気持ちとちゃんと向き合って
家族一緒にいられたならって』
7
『……え?』
8
絵名
『もし傷つけ合っても、ちゃんと話し合って前に進めるなら……
それが一番いいって思うの』
9
絵名
『でも……』
10
絵名
『今じゃなきゃダメなのかな、って』
11
『……どういうこと?』
12
絵名
『私達は、話しか聞いてないけど……
まふゆの様子を見てると、お母さんと会う度に
傷ついてる気がするの』
13
絵名
『だからってわけじゃないんだけど……』
14
絵名
『あのね、私達——
私と瑞希は、の話なんだけどさ』
15
『……うん……』
16
絵名
『……少し前、瑞希がニーゴを離れてた時、あったでしょ?』
17
絵名
『あの時……私、ずっと考えてたの』
18
絵名
『どうして瑞希を引き留めなかったんだろう。
……せめてあの瞬間、何か言えてたら、って』
19
『あ……』
20
絵名
『でも、今は……
あの時、無理に話そうとしなくて、
よかったかもなって思うんだ』
21
『え?』
22
絵名
『あの時の私は、まだ全然、気持ちが整理できてなくてさ』
23
絵名
『瑞希の気持ちもちゃんと考えられてなかったし、
自分自身どうしたいのかも……
混乱して、よくわからなくなってたの』
24
絵名
『そんな状態で、瑞希のそばにいたらきっと……
もっと傷つけてたと思うんだ』
25
絵名
『それこそ……取り返しのつかないくらい』
26
瑞希
『……それは、ボクも同じでさ』
27
瑞希
『あの時、いろいろグチャグチャになってて。
誰かの言葉を受け入れる余裕もなくなっちゃっててさ』
28
瑞希
『多分、何を言われても……
うまく受け入れられなかったんじゃないかって思うんだ』
29
瑞希
『だから、なんていうんだろ……』
30
瑞希
『ちゃんと向き合うのにも、時間が必要だと思うんだ』
31
瑞希
『ふたりがちゃんと心を落ち着かせて、
次の行動を決めるための時間が』
32
絵名
『……うん』
33
絵名
『だから——』
34
絵名
『“距離を置く”っていう選択肢も、
あるんじゃないかな……って』
35
『…………』
36
瑞希
『も、もちろん、ずっととは言わないよ!』
37
瑞希
『でも……今の状況を、
急いでなんとかしようって思わなくても
いいんじゃないかって感じたんだ』
38
瑞希
『時間と距離があれば、
自分の心を整理できるんじゃないかって思うし』
39
絵名
『もしかしたら離れてる間に、
お互い、人間的に成長できるかもしれないしね』
40
『成長……』
41
(……たしかに、まふゆのお母さんは最初に会った時と
この前会った時だと、印象が違った)
42
(……離れてる時間の中で、心境に変化があったのかも)
43
(……でも……)
44
『……一緒にいられる方法は、ないのかな……?』
45
『ふたりはお互いに一緒にいたくて、愛し合ってるから……』
46
『ふたりとも、そうしたいって思ってるだろうし
家族なんだから——』
47
絵名
『うん……』
48
絵名
『でも……やっぱり、今すぐは難しいんじゃないかな』
49
絵名
『私は、まふゆとは違って
父親のことは嫌いだったんだけどさ』
50
絵名
『そのせいで、見えてなかったものとか
逆に、見ないようにしてた気持ちがあったなって
……最近になって、ようやく気づけたんだ』
51
絵名
『だから——やっぱり、自分の考えを変えるのって
すごく大変なんだって思うの』
52
『…………』
53
瑞希
『それに……まふゆも、きっとお母さんも、
頑張って向き合ってるけど』
54
瑞希
『向き合うたびに、
傷が深くなることもあるかもって思って』
55
『あ……』
56
瑞希
『……もしかしたら、向き合うことで
変わっていくこともあるのかもしれないけどね』
57
瑞希
『それは、ボク達にはわからないよ』
58
瑞希
『ただ……』
59
瑞希
『ずっと向き合い続けるって選択肢以外も
あるんじゃないかなってことを伝えたかったんだ』
60
『……そっか……』
61
(……たしかに、そうだ)
62
(怖いって気持ちも、お母さんを大事に想う気持ちも……)
63
(まふゆの心の、すごく深い場所にあって——
きっと、簡単には変えられない)
64
(わたしは……本当は、家族なら
一緒にいられる形で解決できればいいと思ってた)
65
(お互いに愛してるのなら、きっと……
一緒にいるのが一番幸せだって)
66
(だけど——)
67
(…………どうするのが、一番いいんだろう)
68
(わたしは——)
69
瑞希
『……ごめんね、こんな話しちゃって』
70
瑞希
『でも、これは本当にボク達の考えで、
正しいってわけじゃないと思うから』
71
『……うん、わかってる』
72
『でも、話してくれて助かったよ。
わたしだけだと、本当にわからなかったから』
73
絵名
『ただ……これをまふゆに、どういう風に言えばいいのか、
そもそも伝えるべきなのかどうか、悩んでるの』
74
絵名
『……これをまふゆに伝えたら、
まふゆの人生が変わっちゃうかもしれないし』
75
絵名
『だけど、奏には——伝えておこうと思って』
76
『……ありがとう』
77
『わたしも……どうするのがいいのか、考えてみる』
78
瑞希
『じゃあ、ボク達は作業に戻るね。
まふゆも待ってると思うし』
79
『うん、ありがとう。それじゃあ——』
80
絵名
『あ、奏。待って!』
81
『え?』
82
絵名
『……気負いすぎないでね』
83
絵名
『まふゆを救うために、頑張ってる奏のことは、尊敬してるよ』
84
絵名
『でも——』
85
絵名
『自分のことも、大事にしてね』
86
絵名
『それだけが……奏の幸せじゃないんだから』
87
『あ……』
88
絵名
『何かあったら、いつでも話は聞くから。
……それだけ』
89
絵名
『じゃあね』
90
奏の祖母
いつか、奏ちゃんも自分自身の人生を歩むのよ
91
奏の祖母
誰にも縛られない、奏ちゃんだけの人生を
92
……わたしは……
93
ルカ
まふゆに曲を作らなくてもよくなったら……
どうするの?
94
(……わたしと、まふゆは……)
95
…………ちゃんと、考えなきゃ
96
(まふゆが救われるには、どうすれば一番いいのか)
97
(絵名が言ったことも、瑞希が言ったことも——)
98
(それに、ルカが言ったことも)
99
(ちゃんと考えて……答えを出さなきゃ)