???
1
???
『—————————や……!』
2
冬弥
ん……
3
冬弥
(なんだ……?)
4
冬弥
(……今、誰かに呼ばれたような…………)
5
???
『——————おい、トウヤ』
6
???
『——トウヤ、そろそろ起きろ!』
7
冬弥
…………
8
冬弥
ここは……?
9
男子生徒A
『トウヤ、まだ寝ぼけてんのか?
もうすぐ次の授業始まるぞ~』
10
男子生徒B
『はは。ヘルムート先生の授業は退屈だし、
居眠りしたくなるのもわかるけどな』
11
冬弥
………………
12
冬弥
(ドイツ語……?
それに、窓の外のこの景色は…………)
13
冬弥
……ああ、そうか……
14
男子生徒B
『……トウヤ、ぼんやりしてるけど大丈夫か?
もしかして体調悪い?』
15
男子生徒A
『え、そうなのか!? 起こしてごめん!』
16
冬弥
『ああ、いや……大丈夫だ』
17
冬弥
『少し…………、夢を見ていたらしい』
18
男子生徒A
『夢?』
19
冬弥
『ああ。起こしてくれて助かった』
20
冬弥
『ヘルムート先生の授業はいつも興味深い。
聞き逃したくはないからな』
21
男子生徒A
『真面目だなあ、トウヤは!
日本の学生ってみんなそんな感じなのか?』
22
冬弥
『他の学生がどうかはわからないが……そうだな』
23
冬弥
『俺は、自分で望んでここにいるからな』
24
教師
『——合理主義的思想と自然科学。
このふたつがヨーロッパに広まり、新しい価値観をもたらした』
25
教師
『特に自然科学の分野においては——』
26
冬弥
(……ウィーンに留学して、しばらく経つ)
27
冬弥
(勉強についていくのは大変だが、どの授業も興味深い)
28
冬弥
(——こんなに落ち着いて勉強に集中できるのは、
母さんのおかげだな)
数カ月前
青柳家 リビング
29
冬弥
……ただいま
30
冬弥の父
………………
31
冬弥の父
またか。こんな夜遅くまで、一体どこに行っていた?
32
冬弥
…………
33
冬弥の父
どうせまた、ゲームセンターとかいう
くだらない場所だろう
34
冬弥の父
時間を浪費するのは愚か者の振る舞いだ。
何度言えばわかる?
35
冬弥の父
冬弥……!
36
冬弥の父の声
……やっとくだらない音楽をやめたかと思えば、この調子だ。
家に帰っても口をきかず、家族と食事もせず……
37
冬弥の父の声
あいつはいったい、何がしたいんだ?
38
冬弥の母の声
あなた……
39
冬弥
…………
40
冬弥
(ようやくわかった。
クラシックも、ストリート音楽も……)
41
冬弥
(俺なんかが………………触れていいものじゃなかった)
42
冬弥
(……俺は、なんのためにここにいるんだろう)
43
冬弥
(音楽に囲まれて、音楽をやれと言われ続けて——)
44
冬弥
(ここにいると、毎日責められているように感じる)
45
冬弥
(俺にはもう、できないのに)
46
冬弥
(もう……)
47
冬弥
(息をするのさえ、苦しい——)
48
冬弥
そうか……
49
冬弥
この家に……俺の居場所は、ないんだな
50
冬弥の母の声
冬弥さん。少しいいかしら
51
冬弥
………………
52
冬弥の母の声
……開けるわね
53
冬弥の母
お夕飯を持ってきたの。
ここに置いておくから、食べられそうな分だけでも食べてね
54
冬弥
…………すみません
55
冬弥の母
ううん、いいのよ。
——ねえ、冬弥さん
56
冬弥
…………?
57
冬弥の母
少し前から、考えていたことがあるの
58
冬弥の母
よければ……しばらく環境を変えてみるのはどうかしら?
59
冬弥
(母さんの提案通り——
あれからすぐ家を離れて、兄さんの元に身を寄せることになった)
60
冬弥
(元々海外の文化には興味があったし、何かを学ぶことは好きだ)
61
冬弥
(何かに心を乱されることもなく、
ただ勉強に打ち込んで過ごせる)
62
冬弥
(……平穏だな)
兄の家 リビング
63
冬弥
——ただいま
64
冬弥
(そういえば、夏臣兄さんはまだコンサート期間中だったか)
65
冬弥
(同居させてもらうのは心苦しいと思っていたが……
忙しそうで、あまり顔を合わせる機会もない)
66
冬弥
(いや——)
67
冬弥
(……もしかすると、兄さんもそのほうがいいかもしれないな)
68
冬弥
——よし。夕飯を作ろう
69
冬弥
いただきます
70
冬弥
…………
71
冬弥
……肉が硬い。焼きすぎてしまったようだ
72
冬弥
スープは……味付けが薄い。
野菜はもっと小さく切ったほうが食べやすいか。
まだまだ改善するところが多いな
73
冬弥
(しかし……)
74
冬弥
(クラシックをやっていた頃は、
ひとりで食事を作るなんてことはできなかった)
75
冬弥
(そう考えると、今は少しずつ、
普通の人と同じことができるようになっている)
76
冬弥
だから……
77
冬弥
きっと、これで……よかったはずだ
Next Chapter: 大切なもの