翌日
1
冬弥
『おはよう——』
2
男子生徒A
『うわー!! オレはもうダメだ~~!!』
3
男子生徒B
『いい加減諦めろって……』
4
冬弥
『おはよう。……何かあったのか?』
5
男子生徒A
『聞いてくれよ、トウヤ~!
音楽の授業でテストの点数が悪すぎてさあ……』
6
男子生徒B
『実技でどうにかしろって、
今度みんなの前で歌わされるんだと』
7
男子生徒A
『ムリだってえ! マジで音程とか取れねえんだから!』
8
男子生徒B
『そんなこと言ったって——あ』
9
男子生徒B
『そうだ、トウヤにコツとか聞いてみたらどうだ?
たしか音楽の成績、めちゃめちゃよかっただろ』
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冬弥
『え……』
11
男子生徒A
『そういやそうだった!
なあトウヤ、なんかアドバイスくれないか!?』
12
冬弥
『……そうだな。
まず、音程を正確にしたいのであれば——』
13
冬弥
『……俺が思いつくのはこれくらいだろうか。
何か参考になるところがあればいいんだが』
14
男子生徒達
『……………………』
15
男子生徒A
『すごいな、トウヤ! プロみたいじゃん』
16
男子生徒B
『だな。前に音楽やってたって聞いてたけど、
想像以上に本格的でびっくりした』
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冬弥
『そんなに大したことはない。
もうやめてしまったしな』
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男子生徒A
『そうなのか? なんかもったいないな』
19
男子生徒B
『だな。トウヤの歌とか聴いてみたいけど』
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男子生徒B
『またやったりしないのか?』
21
冬弥
『いや……その予定はない』
22
男子生徒A
『え~……あ、なんか嫌な思い出があるとか?』
23
男子生徒B
『おい、ズケズケ聞きすぎだって』
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冬弥
『いや、いいんだ』
25
冬弥
『そういう理由があるわけじゃない。
ただ単に、向いていなかっただけだ』
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冬弥
『たしかに、つらいこともあったが——』
27
冬弥
『……あの頃の記憶は、夢のようで……』
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冬弥
『ずっと、キラキラと輝いている』
29
冬弥
『忘れられない、大切な思い出だ』
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男子生徒A
『へえ……。
っていうか、話聞いてるとすごい楽しかった感じっぽいけど』
31
男子生徒A
『それならなおさら、またやればいいのに』
32
冬弥
(スマホにメッセージ?
差出人は……神高のときのクラスメイトか)
33
冬弥
(内容は——)
34
冬弥
…………!
35
冬弥
(まさか、あんなメッセージが来るとは思わなかったな)
36
冬弥
(——友人同士で集まろう、か)
37
冬弥
(久しぶりにみんなの顔は見たいが……)
38
冬弥
(……どうしようか。
結局、返信できないまま帰ってきてしまった)
39
冬弥
(いつまでも引き伸ばしてはいられないが……)
40
夏臣
——おかえり、冬弥
41
冬弥
……! 夏臣兄さん……戻られていたんですね
42
夏臣
ああ。留守中、特に変わったことはなかったか?
43
冬弥
はい。コンサート、お疲れさまでした。
今、夕飯を用意します
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夏臣
いや、今夜は俺がしよう。久しぶりにやらせてくれ
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冬弥
あ……では、俺は食器の用意をします
46
夏臣
ああ、頼んだ
47
冬弥
——美味しいです。
やっぱり俺が作るのとは、全然違いますね
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夏臣
俺もあまり凝ったものは作らないがな
49
夏臣
……最近、学校はどうだ?
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冬弥
楽しめています。
テストが多いので、気が抜けませんが
51
夏臣
日頃の授業を真面目に受けていれば、自然と結果はついてくる。
予習と復習を欠かさないようにな
52
冬弥
……はい。心掛けます
53
冬弥
…………
54
夏臣
…………
55
夏臣
浮かない顔をしているな。何かあったのか?
56
冬弥
あ……
57
夏臣
何か悩んでいるのなら、話を聞くが
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冬弥
……日本の友人から、連絡が来たんです
59
冬弥
1年のときに親しかった友人同士で、
今度の連休中に集まる予定があって……
よければ参加しないかと
60
夏臣
せっかくの機会だろう。行ってくればいい
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冬弥
そうですね。ただ……
62
冬弥
俺は、行くべきではないかもしれない、と思っていて——
63
夏臣
どういうことだ?
64
冬弥
…………
65
冬弥
……もしかしたら、以前共にストリート音楽をしていた友人も
来るかもしれないんです
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冬弥
俺が中途半端な気持ちで一緒にいたせいで、
一方的に傷つけてしまった相手で……
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冬弥
だから……
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冬弥
きっとその人は、俺の顔を見たくないと思っているはずです
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夏臣
……なるほどな
70
夏臣
冬弥。お前は、その相手のことが嫌いなのか?
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冬弥
え……?
72
夏臣
さっき、相手はもう自分の顔を見たくないと言っていたが……
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夏臣
お前も、同じように思っているのか?
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冬弥
……! いいえ
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冬弥
今さら、合わせる顔がないとは思います
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冬弥
それでも、俺は…………
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冬弥
俺は……その人に、感謝しています
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冬弥
俺に、歌う楽しさを教えてくれた人ですから
79
夏臣
…………
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夏臣
だったら行ってくるといい
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冬弥
え……?
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夏臣
気まずく感じるのも理解できる
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夏臣
だが、同じ音楽が好きで、同じ姿勢で向き合っていたのなら
わかり合えないということはないだろう
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冬弥
それは……
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夏臣
それに、さっきのお前の顔を見たら——
俺は尚更、話をしたほうがいいと感じた
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夏臣
とても大切なものを想う顔だ
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冬弥
…………
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夏臣
俺に言えるのはここまでだ。
……後悔だけはしないようにな
89
冬弥
(俺は…………)
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