劇団三日月組 稽古場
1
???
——稽古再開するぞ、立ち位置につけ!
2
……!
3
(ここは……)
4
???
天馬、どうした?
5
——いえ!
なんでもありません!
6
(何をぼーっとしているんだ、天馬司!)
7
(ただでさえ厳しい三日月組の稽古。
気を抜くなど言語道断!)
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……お待たせしてすみません、位置につきました!
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三日月組団員A
よし。
……鬼島さんも、準備はいいですか?
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鬼島
——ああ、問題ない!
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三日月組団員A
それでは、台本14ページ。
六郎と勘助の殺陣のシーンから! よーい……
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三日月組団員A
——はじめ!
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司・鬼島
『うおおおおおお!』
数分後
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『なぜだ兄上! なぜ、新政府軍に肩入れなど……!』
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『生涯をかけて将軍家に仕えると言った、
あの時の約束を違えるのか……!』
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鬼島
『……時代とともに、人も変わる。
それだけだ』
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『……!』
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三日月組団員B
おお、すげえ……。
あのふたり、また殺陣の腕前上げたんじゃないか?
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三日月組団員C
うん。それに、スピードも……
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(右上からの振り下ろしをいなして体重移動、
ひと呼吸あけ、前に踏み込んで——)
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(……! いや、オレが想定より前に出てしまっている。
半歩分後ろか!)
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鬼島
(さすがだ、天馬くん。
今のアイコンタクトで、きっちり位置を修正してきたな)
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鬼島
(このまま、ラストまで——)
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三日月組団員C
……! さらにスピードが上がった!
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三日月組団員B
この速さに加えて、正確さと迫力……
鬼島さんはもちろんだが、すごいな。天馬のやつ
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鬼島
(——いい動きだ)
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鬼島
(ここに来た当初は、殺陣特有の体の使い方に苦戦していたが
よくついてこられている)
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鬼島
(だが——)
数分後
29
鬼島
それでは、一度休憩を挟もう!
15分後、今のシーンの続きから始めるぞ!
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三日月組団員達
『はい!』
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鬼島さん! のちほど、さっきの殺陣のことで
すり合わせをお願いしてもいいですか?
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鬼島さんが演じる兄の六郎と、オレが演じる弟の勘助——
感情の動きに合わせて、
少し立ち回りを変えてみたい箇所があって
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鬼島
ああ、いいぞ!
それなら、あとでと言わず今からでも——
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三日月組団員B
——いやいや、ダメですって。
ちゃんと休憩しないと、あとに響きますよ〜?
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鬼島
む……それもそうか。
体を休めないと、練習中の集中力も下がる
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鬼島
殺陣の確認は、通し稽古の後でどうだ?
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はい、お願いします!
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三日月組団員C
ふふ。ふたりとも気合い入ってますね
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三日月組団員B
まあ、気持ちはわかりますけど。
この演目は、三日月組初のダブル主演で——
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三日月組団員B
天馬の、三日月組での卒業公演になるわけですから
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——はい。本当に、皆さんにはお世話になりました
42
殺陣も、体の使い方もまだまだだったオレに、
皆さんは丁寧に指導してくれて……
43
おかげで、たくさんの
得難い経験を積むことができました!
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三日月組団員A
はは! 天馬は本当に成長したよ
45
三日月組団員A
しかし、三日月組を出たら海外で役者の修行か。
思いきったことするよなあ
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三日月組団員C
うん。俺だったら、見知らぬ土地で修行なんて
怖気付いてできないと思う。すごいよ、本当
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いえ。これも、
スターになるという夢のためですから!
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まあ、これからニューヨークへ行って
次の劇団を探さなければならないので
本当に手探りではありますが……
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三日月組団員B
そっか。演劇学校に通いながら
劇団を探すって言ってたもんな
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はい。オレには大きな実績がないので、
向こうで実力をつけながらにはなりますが……
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世界のスター目指して、走り続けていこうと思います!
52
そのためにも、最後の公演は
これまでの集大成として——全力で演じますね!
53
鬼島
全力で、か……
54
鬼島
——そうだな。
実際、君は目覚ましい成長を遂げたが、
課題点もまだまだ多い
55
鬼島
しかしそれは、言い換えれば伸び代があるということ!
本番までに、さらに演技を磨いていこう
56
鬼島
だから——
57
鬼島
思いっきり、ぶつかってくるといい!
58
——はい! よろしくお願いします!
59
(ワンダーステージを出てから、
いろいろな劇団で修行させてもらったが……)
60
(日本を発つ前の最後の劇団が、三日月組で本当によかった。
紹介してくれた晶介さんには、感謝しないとな)
61
(今でこそ、なんとか鬼島さんと渡り合えるようには
なってきているが……思い返せば、
最初は練習についていくだけで精一杯だった——)
62
鬼島
どうした天馬くん! そんな体力で、
1公演全力で演じきれると思っているのか!?
63
はあ……は……。
う……お、思っていません……!
64
鬼島
それなら、立ち止まらずに走りきれ。
太陽は待ってくれないぞ!
日が沈むまでに、全力疾走残り5周だ!
65
ぐ……了解です! 残り5周、走りきってみせます!
うおおおおおおお!
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(——よし。ここの殺陣は、
ダイナミックさを出すためにも、回転を加えて思いきり——!)
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三日月組団員C
うわっ……!
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あ……す、すみません!
バランスを崩されたようですが、大丈夫ですか!?
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三日月組団員C
いや、すまない……。
まさか回転を加えるとは思わなくてね
70
三日月組団員C
でも、対処しきれなかった俺の問題だから、
天馬くんは気にしなくていいよ!
次は、受けきってみせるからさ!
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は、はい。すみません……
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(つい、えむ達にやるようにアドリブを入れてしまったが……
あいつらは、少し特殊だったからな)
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(それなら、次は——!)
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鬼島
今日の公演、大成功だったな!
特に天馬くんの活躍ぶりには、目を見張ったぞ!
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本当ですか……!
鬼島さんにそう言っていただけて、嬉しいです!
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鬼島
はっはっは!
だが、ここで満足してはいけないぞ
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鬼島
以前いた劇団では、こんなものではなかったと聞いている。
君なら、もっとできるはずだ!
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……たしかに、殺陣の動きにはまだ
ぎこちなさが残っているかもしれません……
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しかし、あらゆる動きを自分のものにしてこそスター!
これから、もっと精進していきます!
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……鬼島さんや三日月組の皆さんのおかげで、
本当に多くのことを学ぶことができました
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この恩を返すためにも……
必ず、最高の舞台にしてみせます
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皆さんと——鬼島さんと、一緒に!
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鬼島
ああ、期待しているぞ、天馬くん!
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鬼島
最後まで、ともに駆け抜けようじゃないか!
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はい!
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