朝比奈家 リビング
まふゆの父
まふゆ、なんだか最近楽しそうだな
まふゆ
え、そうかな?
まふゆの父
ああ、表情が活き活きしているように見えるよ。
何かあったのか?
何かあったのか?
まふゆ
そうだね。最近、友達がみんな楽しそうで……
まふゆ
私も、嬉しいなって思ったんだ
まふゆの父
そうか……。
まふゆは友達思いだな
まふゆは友達思いだな
まふゆの母
ええ。優しい子に育ってくれて
お母さんも嬉しいわ
お母さんも嬉しいわ
25時
まふゆ
……みんな、楽しそうだったな
まふゆ
…………よかった
翌日
まふゆ
……え、私のために曲を?
奏
うん……
奏
朝比奈さん、わたしのために
いろいろしてくれたでしょ?
いろいろしてくれたでしょ?
奏
小論文を教えてくれたり、絵を描くのに付き合ってくれたり。
あと、吹奏楽部のこととか……
あと、吹奏楽部のこととか……
奏
だからわたしも……何か朝比奈さんに返したくて
まふゆ
そんな、気にしなくてもいいのに
奏
ううん、わたしがしたかったんだ。
本当に嬉しかったし、楽しかったから
本当に嬉しかったし、楽しかったから
奏
朝比奈さんがよかったら、受け取ってほしいな
まふゆ
そっか……ありがとう
まふゆ
聴いてみてもいいかな
奏
うん、もちろん!
まふゆ
……うん、すごく優しくていい曲だと思う
まふゆ
ありがとう、宵崎さん
奏
……えっと、ごめん
まふゆ
え?
奏
なんとなく、だけど……
朝比奈さんの好みじゃなかったのかもって
朝比奈さんの好みじゃなかったのかもって
奏
ごめんね。もう1回作ってくるよ。
朝比奈さんに、ちゃんといいなって思ってほしいから
朝比奈さんに、ちゃんといいなって思ってほしいから
まふゆ
あ……
奏
朝比奈さん……?
まふゆ
ううん、なんでもない。
……本当にいい曲だと思ったよ
……本当にいい曲だと思ったよ
まふゆ
だから——
まふゆ
私のために、曲を作らなくてもいいんだよ
奏
え……
宵崎家 キッチン
奏
…………ただいま
奏の父
おかえり、奏
奏
あれ? お父さん、今日は打ち合わせで出かけるって
言ってなかった?
言ってなかった?
奏の父
はは、ちょうど今帰ってきたところだったんだ
奏
そうだったんだ。お疲れさま
奏の父
……何か、あったのかい?
奏
え……
奏の父
なんだか少し、元気がないように見えたから
奏
…………
奏
友達に曲を作っていったんだけど、
あんまり気に入ってもらえなかったみたいなんだ
あんまり気に入ってもらえなかったみたいなんだ
奏
それで……また曲を、って思ったんだけど……
奏
……もう、作らなくてもいいって言われちゃって
奏
わたしの曲が響かなかったのは、しょうがないと思う。
お父さんみたいにみんなを幸せにする曲を作るのは、
まだ、わたしには難しいんだなって思うから
お父さんみたいにみんなを幸せにする曲を作るのは、
まだ、わたしには難しいんだなって思うから
奏
でも、それだけじゃなくて……
奏
…………なんだか、苦しそうで……
奏の父
苦しそう? その子がかい?
奏
うん……
奏
仲良くなったのは最近だから
そこまで、その子のことは知らないんだけど……
そこまで、その子のことは知らないんだけど……
奏
でも……その顔を見て、なんだか……
このままにしたくないって思ったんだ
このままにしたくないって思ったんだ
奏
その子には、笑っていてほしいって——
奏
……あれ? なんだろう。
前にもこういうこと、あったような……
前にもこういうこと、あったような……
奏の父
笑っていてほしい、か
奏の父
それが奏の願うことなら——
もうどうしたいのかは、決まっているんじゃないかな
もうどうしたいのかは、決まっているんじゃないかな
奏
あ……
奏
ありがとう、お父さん
奏
わたし……また作ってみる
奏の父
ああ。奏なら——きっと出来るよ
奏
……この音じゃない
奏
もっと深くて、冷たくて……でも少しだけ光が差すような……
奏
(——どうして、あの時苦しそうに見えたのかはわからない)
奏
(もしかしたら、わたしの勘違いかもしれない)
奏
(だけど……)
奏
(……せめて、ほんの少しだけでも笑顔になってほしい)
奏
(わたしの、曲で————)
???
……————♪
奏
あれ? 今の……
???
この曲じゃ、あの子を迷路から救い出すことはできないでしょうね
奏
え……?
???
この曲は、聴いた人をどこに辿り着かせてくれるの?
奏
わたしの、曲は…………
???
奏の作る歌は、やっぱり優しいね
???
『K。きっと届くよ、この曲』
???
本当に——ずっと作り続けてくれるんだよね
奏
……そっか……
奏
そう、だった
奏
わたしは、ずっとそのために——曲を作ってたんだ
奏
…………この曲が、届くといいな
奏
みんなに——
絵名の部屋
絵名
……っ、違う。もっと暗くて、重くて、
抉られるような感じを出したいのに……!
抉られるような感じを出したいのに……!
絵名
これじゃ、全然……
絵名
——描き直さなきゃ
絵名
(これで何回目だろう? もう、覚えてない)
絵名
(でも……とにかく、描かなきゃ)
絵名
(描けなくても、描いて、描いて、描いて——!)
絵名
(————本当に、描けるの……?)
絵名
(もう、この絵がいいのかどうかもわかんない)
絵名
(ただ、描かなきゃってだけで……)
絵名
(誰か————)
メッセージ
『ねえ、Kさんの新曲聴いた?』
絵名
新曲……?
メッセージ
『聴いた聴いた!
いつもとちょっと雰囲気違うよね。
なんか暗いっていうか』
いつもとちょっと雰囲気違うよね。
なんか暗いっていうか』
メッセージ
『ね。私は前のほうが好きだなあ』
絵名
Kって……あの明るい曲作ってる人だよね
絵名
あんまり好みの感じじゃなかったけど……
絵名
……URL来た。
少しだけなら——
少しだけなら——
絵名
……今までと、全然違うじゃん
絵名
(胸の奥がぎゅっとなって、苦しくて、あったかくて——)
絵名
(なんだろう、この気持ち……)
絵名
(うまく言えないけど……この気持ちを、
今すぐ表現したい——!)
今すぐ表現したい——!)
絵名
——ここは、もっと暗い色を塗り重ねて……
絵名
……違うな。それだとただ沈んだ感じになっちゃう
絵名
もっと光を入れて、影の部分が引き立つように——
絵名
————出来た……
絵名
(……Kって人の、おかげだな)
絵名
……そうだ、せっかく描けたんだし
ファンアートで上げよっかな
ファンアートで上げよっかな
絵名
(誰かに見てもらえるかは、わかんないけど……)
絵名
……よし、アップできた
絵名
(……でも、なんだろ。
何かが足りないような、胸に穴が空いてるみたいな感じ……)
何かが足りないような、胸に穴が空いてるみたいな感じ……)
絵名
(この気持ちって……)
絵名
え、DM? な、なんで……誰から?
【K】
『えななん、ありがとう。
ナイトコードで待ってる』
ナイトコードで待ってる』
絵名
……ナイトコード……
絵名
あ、そっか。私——
絵名
——ありがとう、K
絵名
Kは、どこでも——私を見つけてくれるんだね
瑞希の部屋
瑞希
よーし、完成~!
瑞希
うんうん、すっごくカワイイ!
これ、初めてとは思えないクオリティじゃない!?
これ、初めてとは思えないクオリティじゃない!?
瑞希
誰かに見てほしい……けど、杏はさすがに寝てるよねー。
SNSに上げとこっかな~
SNSに上げとこっかな~
瑞希
……それにしても、やっぱゼロからひとりでってなると
結構時間かかっちゃうなあ
結構時間かかっちゃうなあ
瑞希
まあ、趣味で作ってるやつだし。
全然いいんだけど——
全然いいんだけど——
瑞希
——次のはどんなデザインにしよっかな~。
ワンピースもいいけど、ちょっと方向性変えてアウターでも……
ワンピースもいいけど、ちょっと方向性変えてアウターでも……
瑞希
……ん? トレンドの通知?
瑞希
この曲……前に聴いたKさんのか。
ちょっと息抜きに聴いてみよっかな
ちょっと息抜きに聴いてみよっかな
瑞希
さてさて、今回はどんな——
瑞希
この、曲……
???
『Amiaがわたしの世界を広げてくれたから、
わたしはあの曲を作れたんだと思う』
わたしはあの曲を作れたんだと思う』
???
久しぶりに会えて……よかった
???
一緒にいようよ、瑞希
???
ニーゴのみんなも、待ってるよ
瑞希
そっか——
瑞希
そうだったよね
瑞希
みんなと一緒に作るのが——
ボクは、すごく好きだったんだ
ボクは、すごく好きだったんだ
瑞希
え、DM? 誰から……
瑞希
……K……
まふゆ
(……いつまで、続くんだろう……)
まふゆの父
誰かに寄り添う、か……まふゆらしいな
まふゆの母
ふふっ、どんな道に進んでも
きっとまふゆなら大丈夫ね
きっとまふゆなら大丈夫ね
まふゆ
(奏から、メッセージが来てる)
まふゆ
(昨日から学校に来てなかったけど……
やっぱり曲、作ってたんだ)
やっぱり曲、作ってたんだ)
まふゆ
…………っ!
まふゆ
(この曲……)
まふゆ
(どうして——)
???
——まふゆ!
まふゆ
あ……
まふゆ
……奏……?
奏
……はあ、学校に通ってるだけあって
ちょっと体力ついてるみたい
ちょっと体力ついてるみたい
奏
走っても、いつもよりも辛くなかったよ
まふゆ
……だから、運動したほうがいいよって言ってる
奏
そうだね。身にしみた
奏
……ねえ、まふゆ。曲、聴いてくれた?
まふゆ
……うん
まふゆ
あたたかいって、思った
奏
……そっか。よかった
奏
——ごめんね。待たせちゃって
まふゆ
奏が悪いわけじゃないでしょ。
それに……
それに……
まふゆ
夢の中くらい、他のことをしててもいいのに
奏
うん、それも楽しかったよ
奏
でもやっぱり……まふゆに、曲を作りたかったんだ
まふゆ
……そう
まふゆ
私も……聴けて、よかった
奏
ナイトコードに集まろう。
絵名と瑞希にも声かけてるんだ
絵名と瑞希にも声かけてるんだ
まふゆ
そうなんだ……
まふゆ
……わかった
25時
寝室
絵名
『……ていうか、これってどういうこと?』
絵名
『夢? にしては、現実的すぎるよね』
瑞希
『たしかにね。こういうのって、記憶が戻って
夢だ~!って気づいた時に起きるイメージだったんだけど』
夢だ~!って気づいた時に起きるイメージだったんだけど』
まふゆ
『…………』
まふゆ
『……たぶん、そういうきっかけでは覚めないんだと思う』
奏
『え?』
まふゆ
『私は、途中で記憶が戻ったから』
絵名
『記憶が戻ったって……えっ?』
瑞希
『だったら言ってくれればよかったのに!
それじゃ、まふゆが……』
それじゃ、まふゆが……』
まふゆ
『……みんな、楽しそうだったから』
まふゆ
『もう少しこのままでいてもいいんじゃないか、って思ったの』
奏
『まふゆ……』
まふゆ
『でも——』
まふゆ
『25時になっても、みんながいなくて……』
まふゆ
『それが……少し、嫌だった』
奏
『………ごめんね、まふゆ。ひとりにして』
絵名
『もう……! だったらなおさら言いなさいよ!』
瑞希
『まあまあ。けど、今まで集まれなかった分は、
ちゃーんと取り返したいよね』
ちゃーんと取り返したいよね』
瑞希
『今日は朝まで作業しちゃう?』
奏
『いいね、やりたいな』
絵名
『……私も。久々にニーゴの絵、描きたいし』
まふゆ
『……うん』
奏の父の声
——奏、まだ起きているのかい?
奏
あ……!
奏
(えっと、ミュートして——)
奏
お父さん、ごめんね。
今日は少し夜ふかしすることになりそう
今日は少し夜ふかしすることになりそう
奏の父
そうか……。
曲作りに熱中するのはいいけれど、ちゃんと休むんだよ
曲作りに熱中するのはいいけれど、ちゃんと休むんだよ
奏
うん、わかった
奏の父
——それじゃあ、お父さんは先に……
奏
あ、お、お父さん。えっと……
奏の父
ん? どうしたんだい?
奏
……あのね、テストの点が良かったら、って話してたけど……
奏
先にお願い、言っていいかな。
勉強、絶対に頑張るから……
勉強、絶対に頑張るから……
奏
久しぶりに——お父さんの曲、聴きたいんだ
奏の父
——じゃあ、頑張る奏への応援歌だな。
ギターを持ってくるよ
ギターを持ってくるよ
奏
……ありがとう、お父さん
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