朝比奈家 リビング
1
まふゆの父
まふゆ、なんだか最近楽しそうだな
2
まふゆ
え、そうかな?
3
まふゆの父
ああ、表情が活き活きしているように見えるよ。
何かあったのか?
4
まふゆ
そうだね。最近、友達がみんな楽しそうで……
5
まふゆ
私も、嬉しいなって思ったんだ
6
まふゆの父
そうか……。
まふゆは友達思いだな
7
まふゆの母
ええ。優しい子に育ってくれて
お母さんも嬉しいわ
25時
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まふゆ
……みんな、楽しそうだったな
9
まふゆ
…………よかった
翌日
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まふゆ
……え、私のために曲を?
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うん……
12
朝比奈さん、わたしのために
いろいろしてくれたでしょ?
13
小論文を教えてくれたり、絵を描くのに付き合ってくれたり。
あと、吹奏楽部のこととか……
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だからわたしも……何か朝比奈さんに返したくて
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まふゆ
そんな、気にしなくてもいいのに
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ううん、わたしがしたかったんだ。
本当に嬉しかったし、楽しかったから
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朝比奈さんがよかったら、受け取ってほしいな
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まふゆ
そっか……ありがとう
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まふゆ
聴いてみてもいいかな
20
うん、もちろん!
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まふゆ
……うん、すごく優しくていい曲だと思う
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まふゆ
ありがとう、宵崎さん
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……えっと、ごめん
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まふゆ
え?
25
なんとなく、だけど……
朝比奈さんの好みじゃなかったのかもって
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ごめんね。もう1回作ってくるよ。
朝比奈さんに、ちゃんといいなって思ってほしいから
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まふゆ
あ……
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朝比奈さん……?
29
まふゆ
ううん、なんでもない。
……本当にいい曲だと思ったよ
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まふゆ
だから——
31
まふゆ
私のために、曲を作らなくてもいいんだよ
32
え……
宵崎家 キッチン
33
…………ただいま
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奏の父
おかえり、奏
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あれ? お父さん、今日は打ち合わせで出かけるって
言ってなかった?
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奏の父
はは、ちょうど今帰ってきたところだったんだ
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そうだったんだ。お疲れさま
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奏の父
……何か、あったのかい?
39
え……
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奏の父
なんだか少し、元気がないように見えたから
41
…………
42
友達に曲を作っていったんだけど、
あんまり気に入ってもらえなかったみたいなんだ
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それで……また曲を、って思ったんだけど……
44
……もう、作らなくてもいいって言われちゃって
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わたしの曲が響かなかったのは、しょうがないと思う。
お父さんみたいにみんなを幸せにする曲を作るのは、
まだ、わたしには難しいんだなって思うから
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でも、それだけじゃなくて……
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…………なんだか、苦しそうで……
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奏の父
苦しそう? その子がかい?
49
うん……
50
仲良くなったのは最近だから
そこまで、その子のことは知らないんだけど……
51
でも……その顔を見て、なんだか……
このままにしたくないって思ったんだ
52
その子には、笑っていてほしいって——
53
……あれ? なんだろう。
前にもこういうこと、あったような……
54
奏の父
笑っていてほしい、か
55
奏の父
それが奏の願うことなら——
もうどうしたいのかは、決まっているんじゃないかな
56
あ……
57
ありがとう、お父さん
58
わたし……また作ってみる
59
奏の父
ああ。奏なら——きっと出来るよ
60
……この音じゃない
61
もっと深くて、冷たくて……でも少しだけ光が差すような……
62
(——どうして、あの時苦しそうに見えたのかはわからない)
63
(もしかしたら、わたしの勘違いかもしれない)
64
(だけど……)
65
(……せめて、ほんの少しだけでも笑顔になってほしい)
66
(わたしの、曲で————)
67
???
……————♪
68
あれ? 今の……
69
???
この曲じゃ、あの子を迷路から救い出すことはできないでしょうね
70
え……?
71
???
この曲は、聴いた人をどこに辿り着かせてくれるの?
72
わたしの、曲は…………
73
???
奏の作る歌は、やっぱり優しいね
74
???
『K。きっと届くよ、この曲』
75
???
本当に——ずっと作り続けてくれるんだよね
76
……そっか……
77
そう、だった
78
わたしは、ずっとそのために——曲を作ってたんだ
79
…………この曲が、届くといいな
80
みんなに——
絵名の部屋
81
絵名
……っ、違う。もっと暗くて、重くて、
抉られるような感じを出したいのに……!
82
絵名
これじゃ、全然……
83
絵名
——描き直さなきゃ
84
絵名
(これで何回目だろう? もう、覚えてない)
85
絵名
(でも……とにかく、描かなきゃ)
86
絵名
(描けなくても、描いて、描いて、描いて——!)
87
絵名
(————本当に、描けるの……?)
88
絵名
(もう、この絵がいいのかどうかもわかんない)
89
絵名
(ただ、描かなきゃってだけで……)
90
絵名
(誰か————)
91
メッセージ
『ねえ、Kさんの新曲聴いた?』
92
絵名
新曲……?
93
メッセージ
『聴いた聴いた!
いつもとちょっと雰囲気違うよね。
なんか暗いっていうか』
94
メッセージ
『ね。私は前のほうが好きだなあ』
95
絵名
Kって……あの明るい曲作ってる人だよね
96
絵名
あんまり好みの感じじゃなかったけど……
97
絵名
……URL来た。
少しだけなら——
98
絵名
……今までと、全然違うじゃん
99
絵名
(胸の奥がぎゅっとなって、苦しくて、あったかくて——)
100
絵名
(なんだろう、この気持ち……)
101
絵名
(うまく言えないけど……この気持ちを、
今すぐ表現したい——!)
102
絵名
——ここは、もっと暗い色を塗り重ねて……
103
絵名
……違うな。それだとただ沈んだ感じになっちゃう
104
絵名
もっと光を入れて、影の部分が引き立つように——
105
絵名
————出来た……
106
絵名
(……Kって人の、おかげだな)
107
絵名
……そうだ、せっかく描けたんだし
ファンアートで上げよっかな
108
絵名
(誰かに見てもらえるかは、わかんないけど……)
109
絵名
……よし、アップできた
110
絵名
(……でも、なんだろ。
何かが足りないような、胸に穴が空いてるみたいな感じ……)
111
絵名
(この気持ちって……)
112
絵名
え、DM? な、なんで……誰から?
113
【K】
『えななん、ありがとう。
ナイトコードで待ってる』
114
絵名
……ナイトコード……
115
絵名
あ、そっか。私——
116
絵名
——ありがとう、K
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絵名
Kは、どこでも——私を見つけてくれるんだね
瑞希の部屋
118
瑞希
よーし、完成~!
119
瑞希
うんうん、すっごくカワイイ!
これ、初めてとは思えないクオリティじゃない!?
120
瑞希
誰かに見てほしい……けど、杏はさすがに寝てるよねー。
SNSに上げとこっかな~
121
瑞希
……それにしても、やっぱゼロからひとりでってなると
結構時間かかっちゃうなあ
122
瑞希
まあ、趣味で作ってるやつだし。
全然いいんだけど——
123
瑞希
——次のはどんなデザインにしよっかな~。
ワンピースもいいけど、ちょっと方向性変えてアウターでも……
124
瑞希
……ん? トレンドの通知?
125
瑞希
この曲……前に聴いたKさんのか。
ちょっと息抜きに聴いてみよっかな
126
瑞希
さてさて、今回はどんな——
127
瑞希
この、曲……
128
???
『Amiaがわたしの世界を広げてくれたから、
わたしはあの曲を作れたんだと思う』
129
???
久しぶりに会えて……よかった
130
???
一緒にいようよ、瑞希
131
???
ニーゴのみんなも、待ってるよ
132
瑞希
そっか——
133
瑞希
そうだったよね
134
瑞希
みんなと一緒に作るのが——
ボクは、すごく好きだったんだ
135
瑞希
え、DM? 誰から……
136
瑞希
……K……
137
まふゆ
(……いつまで、続くんだろう……)
138
まふゆの父
誰かに寄り添う、か……まふゆらしいな
139
まふゆの母
ふふっ、どんな道に進んでも
きっとまふゆなら大丈夫ね
140
まふゆ
(奏から、メッセージが来てる)
141
まふゆ
(昨日から学校に来てなかったけど……
やっぱり曲、作ってたんだ)
142
まふゆ
…………っ!
143
まふゆ
(この曲……)
144
まふゆ
(どうして——)
145
???
——まふゆ!
146
まふゆ
あ……
147
まふゆ
……奏……?
148
……はあ、学校に通ってるだけあって
ちょっと体力ついてるみたい
149
走っても、いつもよりも辛くなかったよ
150
まふゆ
……だから、運動したほうがいいよって言ってる
151
そうだね。身にしみた
152
……ねえ、まふゆ。曲、聴いてくれた?
153
まふゆ
……うん
154
まふゆ
あたたかいって、思った
155
……そっか。よかった
156
——ごめんね。待たせちゃって
157
まふゆ
奏が悪いわけじゃないでしょ。
それに……
158
まふゆ
夢の中くらい、他のことをしててもいいのに
159
うん、それも楽しかったよ
160
でもやっぱり……まふゆに、曲を作りたかったんだ
161
まふゆ
……そう
162
まふゆ
私も……聴けて、よかった
163
ナイトコードに集まろう。
絵名と瑞希にも声かけてるんだ
164
まふゆ
そうなんだ……
165
まふゆ
……わかった
25時
寝室
166
絵名
『……ていうか、これってどういうこと?』
167
絵名
『夢? にしては、現実的すぎるよね』
168
瑞希
『たしかにね。こういうのって、記憶が戻って
夢だ~!って気づいた時に起きるイメージだったんだけど』
169
まふゆ
『…………』
170
まふゆ
『……たぶん、そういうきっかけでは覚めないんだと思う』
171
『え?』
172
まふゆ
『私は、途中で記憶が戻ったから』
173
絵名
『記憶が戻ったって……えっ?』
174
瑞希
『だったら言ってくれればよかったのに!
それじゃ、まふゆが……』
175
まふゆ
『……みんな、楽しそうだったから』
176
まふゆ
『もう少しこのままでいてもいいんじゃないか、って思ったの』
177
『まふゆ……』
178
まふゆ
『でも——』
179
まふゆ
『25時になっても、みんながいなくて……』
180
まふゆ
『それが……少し、嫌だった』
181
『………ごめんね、まふゆ。ひとりにして』
182
絵名
『もう……! だったらなおさら言いなさいよ!』
183
瑞希
『まあまあ。けど、今まで集まれなかった分は、
ちゃーんと取り返したいよね』
184
瑞希
『今日は朝まで作業しちゃう?』
185
『いいね、やりたいな』
186
絵名
『……私も。久々にニーゴの絵、描きたいし』
187
まふゆ
『……うん』
188
奏の父の声
——奏、まだ起きているのかい?
189
あ……!
190
(えっと、ミュートして——)
191
お父さん、ごめんね。
今日は少し夜ふかしすることになりそう
192
奏の父
そうか……。
曲作りに熱中するのはいいけれど、ちゃんと休むんだよ
193
うん、わかった
194
奏の父
——それじゃあ、お父さんは先に……
195
あ、お、お父さん。えっと……
196
奏の父
ん? どうしたんだい?
197
……あのね、テストの点が良かったら、って話してたけど……
198
先にお願い、言っていいかな。
勉強、絶対に頑張るから……
199
久しぶりに——お父さんの曲、聴きたいんだ
200
奏の父
——じゃあ、頑張る奏への応援歌だな。
ギターを持ってくるよ
201
……ありがとう、お父さん