数日後
アークランド ワークショップ会場
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ベテラン演出家
それではこれより、
演出家コースのワークショップをはじめます
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堅苦しいのは好きじゃないし、
ここからはざっくばらんにいかせてもらうよ
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ってわけで、早速もうひとりの講師にご登場願おうかな
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トム
『——やあ。僕の声は聞こえてるかな?』
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『聞こえてるし、君の寝癖も
しっかりスクリーンに映ってるよ。トム』
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トム
『よし。それなら問題なしだね』
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(世界的に活躍している演出家同士、
交流があるのは自然だけれど……)
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(このふたりは、かなり親しいようだね)
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ああ、そうそう。
今回のワークショップは、基本的に
日本語も英語もごちゃ混ぜだから
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よっぽど専門的な単語は通訳するけど、
いつか海外で仕事するときの予行だと思って
頑張ってついてきて
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スマホとか、パソコンの翻訳機能を使ってもいいよ。
トムもそうしてるしね
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トム
『皆さん、こんにちは。
抱えている仕事の関係で日本には行けないけれど、
このワークショップをすごく楽しみにしていたんだ』
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トム
『僕達は講師って立場だけど、
君達からも教えてもらうことがきっとたくさんある』
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トム
『全員で、実りのある時間にしていこう』
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ベテラン演出家
ではここからは、
ワークショップの課題について説明していきます
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ベテラン演出家
演出家コースの課題は、『一からショーを作り上げること』
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ベテラン演出家
アークランドの舞台で上演する新しいショーを
手掛けるなら、という想定です
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……アークランドで上演するということは、
世界的にも通用するようなレベル——
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幅広い年齢層が楽しめる娯楽性と、
高い芸術性の両方が求められるということか
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ベテラン演出家
それぞれのオリジナリティを見たいため、
既存の戯曲や映画からの翻案はなし。
オマージュ程度であれば問題ありません
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ベテラン演出家
また出演者については、同じくワークショップに
参加している役者に声をかけてください
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(……なるほど。となると僕の場合は、
司くん達に協力してもらうことになりそうだな)
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上演時間は、1時間を目安にまとめてね
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1カ月で仕上げたら、僕達の前でお披露目と講評タイムだ
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アークランドさんからビシバシしごいてほしいって
言われてるから。へこまないでね
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若手演出家A
……笑顔なのが余計怖いな……
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若手演出家B
まあ、厳しく言ってもらえるほうが勉強になるし。頑張ろうぜ
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トム
『課題の説明は以上だよ。
いいものを見せてもらえたら嬉しいな』
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それじゃあ、これで解散——と言いたいところだけど……
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せっかくだ。本格的に課題に入る前に、
軽い腕試しをしよう
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若手演出家A
腕試し、って……
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トム
『みんな、身構えなくても大丈夫だよ。
一緒にワークショップをやっていくメンバーを
知るための宿題みたいなものさ』
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トム
『というわけで、次回までに自己紹介を兼ねて
短いショーを作ってほしい』
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自己紹介……?
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演出家なら、自分の演出で語るのが一番早いでしょ?
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テーマは“雨”。
アークランドの入口近くにあるアーケードで、
3分程度のショーをやる想定で作ってみて
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ただし実際に演じるのはこの会議室だから、
環境面は考慮すること
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役者は1名。
演出をフラットに見るために
今回はこちらで指定させてもらうよ
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君達もよく知っている、玄武旭だ
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…………!
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(なるほど。旭さんならどんな役柄にも対応できるから、
演出の力量差がわかりやすく出る)
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(僕達の実力を、講師側が見極めるのにうってつけだ)
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脚本と演出プランは、次回のワークショップまでに
完成させてくること
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——期待してるよ?
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ここが、上演を想定しているアーケードか
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入口近くのアーケードでやるのであれば、
観客の年齢層はそれほど偏らない……
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アークランドの世界観に馴染ませたうえで、
これから過ごす時間への期待が高まるような、
そんなショーにできると良さそうだ
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(……しかし、トムに演出を見てもらえるなんて
まるで夢のようだね)
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(自己紹介を兼ねたショー……。
難しい課題だけれど、頑張ろう)
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アークランドに合わせるのであれば、
魔法やファンタジー要素は相性がいいだろう
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あとは……自己紹介として、
僕自身に関係のある題材を盛り込むのがいいかな
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そうだ。昔、ゲリラショーをやっていた時の
アイディアを使って——
1週間後
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『ああ、もう!
なんでオレの大切な日には、いつも雨が降るんだ!!』
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『このままじゃ、姫との結婚式が台無しだ!』
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『——おや。ずいぶん濡れてしまったね』
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『よければ僕の家で休んでいかないかい?
温かいスープもあるよ』
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(……興味深いな)
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(同じテーマと条件を与えられている分、
それぞれの演出家の個性がはっきりと際立って、勉強になる)
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(そして、何より——)
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最後のセリフに、“意味”をのせたほうがいいね
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今だと、単なる日常会話でしょ。
もっと印象に残る言い回しを意識してみて
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若手演出家A
わかりました
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トム
『構成の大胆さはよかったね。
観客の興味を引き付ける工夫がされていたよ』
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ベテラン演出家
そうですね。
あとは小道具に頼りすぎている箇所を——
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…………
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(圧倒的な経験に基づいた、あらゆる角度からの分析——
講師からの指摘は、どれも学びの宝庫だ)
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(これを聞くだけでも、
ワークショップに参加した価値があるね)
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ベテラン演出家
——次で最後ですね。神代くん
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はい。
……よろしくお願いします、旭さん
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ああ
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『——なあ、君は見たことがあるかい?』
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『何をって? 雨の日にだけ咲く特別な花さ!』
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『この辺りで見かけたって人がいて、探しにきたんだ』
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ベテラン演出家
——雨の日にだけ咲く花を探して、
テーマパークに迷い込んだ植物学者
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ベテラン演出家
花を探す道中で、雨の日にしかできない
特別な体験を観客にも共有する構成ですね
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はい
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トム
『全体的にあたたかい雰囲気で、
子供から大人まで幅広く楽しめそうだ』
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トム
『ところで、違っていたら恥ずかしいんだけど……
君は、“蜜蜂の声”を見てくれてたりする?』
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『……はい』
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『雨の中で、群衆の傘を無数の花に
見立てる演出が印象的でした』
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トム
『ああ、やっぱり!』
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トム
『すごいなあ。あの舞台の映像って、
古すぎてもう一般には出回ってないはずだけど』
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(本人の前で、直接的な
オマージュは避けたつもりだったけれど……)
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(やっぱり、伝わってしまうものなんだな)
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…………
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ベテラン演出家
——僕の所感は以上です。
榊さんはいかがですか?
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……そうですね
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よくまとまっていると思ったかな。
高校生とは思えないくらい、
テクニックと客観性がずば抜けてるよ
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若手演出家C
……すごいな、彼
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若手演出家B
ああ。今までの講評で榊さんが
あそこまで褒めたの、初めてじゃないか……?
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(違う。これは…………)
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——けど、それだけかな
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僕はファミリー向けの作品、結構好きなんだけどね。
単純に見えて奥深いでしょ、ああいうのって
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でも、君の脚本と演出はそうじゃない
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つまらないもの作るねえ——『カミシロくん』
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