アークランド ワークショップ会場
ベテラン演出家
それでは、本日のワークショップを終了します
ベテラン演出家
このあとの予定ですが、希望者については——
類
………………
類
(……つまらない、か)
榊
君はきっと頭もいいし、かなり器用だ。
だから今のままでも、ある程度のところまではいけるよ
だから今のままでも、ある程度のところまではいけるよ
榊
求められるものに応えるのも才能だしね。
けど……君はもう少し違うタイプだと思うな
けど……君はもう少し違うタイプだと思うな
類
違うタイプ……
榊
——って言っても、これは僕の個人的な感想だから。
そこまで気にしなくていいよ
そこまで気にしなくていいよ
類
(他の受講生へのフィードバックを聞く限り、
彼の指摘はいつも本質を突いていた……)
彼の指摘はいつも本質を突いていた……)
類
(これは“個人の感想”で処理していい話ではない)
類
……幅広い客層に届くもの、という作り方自体が
間違っているわけではなさそうだった
間違っているわけではなさそうだった
類
だとすれば、題材の掘り下げ方に問題が?
一般的な方向に寄せすぎて、
オリジナリティが不足していたのかも——
一般的な方向に寄せすぎて、
オリジナリティが不足していたのかも——
司
——おい、類?
類
司くん……? どうしてここに?
えむ
あたし達もいるよ~!
寧々
こっちもワークショップが終わったから、迎えにきたの。
類も見学、行くでしょ?
類も見学、行くでしょ?
類
見学……?
司
なんだ、説明されなかったのか?
司
この後、希望者は勉強の一環として
THE CENTER THEATREで行われる
ショーの稽古を見学させてもらえるそうだ!
THE CENTER THEATREで行われる
ショーの稽古を見学させてもらえるそうだ!
えむ
しかもね、主役は旭さんなんだって!
類
ああ。そういえばさっき、
この後の予定について説明されていたような……
この後の予定について説明されていたような……
類
(考えに没頭しているうちに、聞き逃してしまったようだ)
類
(講評の件はきちんと考えるとして……
今は切り替えなくては)
今は切り替えなくては)
類
——迎えに来てくれてありがとう。
早速、見学させてもらおうか
早速、見学させてもらおうか
THE CENTER THEATRE
えむ
ひゃ~……! すっごくきれいな劇場……!
寧々
さすが、国内最高峰の舞台だね……
類
THE CENTER THEATREで上演ができるのは、
アークランドの中でも特に優秀な
俳優だけだと聞いていたけれど……
アークランドの中でも特に優秀な
俳優だけだと聞いていたけれど……
類
劇場としても、設備面で
かなりこだわった造りになっているようだね
かなりこだわった造りになっているようだね
舞台スタッフ
客席からだと大道具の陰になりそうなので、
このシーンの立ち位置が変更になっています
このシーンの立ち位置が変更になっています
旭
わかりました。実際にやってみて違和感があったら、
また相談させてもらいます
また相談させてもらいます
舞台スタッフ
勿論です。あと、照明のタイミングなんですが——
司
旭さんだな。
今日は通し稽古だそうだから、事前の打ち合わせか?
今日は通し稽古だそうだから、事前の打ち合わせか?
類
そうみたいだね
類
今日は演出家のワークショップにも
協力してくれていたけれど……
本当にタフで頭が下がるよ
協力してくれていたけれど……
本当にタフで頭が下がるよ
舞台スタッフ
僕のほうからは以上ですね。
旭さんのほうで、何か気になるところはありますか?
旭さんのほうで、何か気になるところはありますか?
旭
いえ、大丈夫です
旭
……あの、稽古が始まるまで、
少し席を外してもいいですか?
少し席を外してもいいですか?
舞台スタッフ
いいですよ。
お腹が空いたからって、衣装のまま食事はなしですけど
お腹が空いたからって、衣装のまま食事はなしですけど
旭
あはは、大丈夫です!
ちょっと友人と話してくるだけなので
ちょっと友人と話してくるだけなので
旭
——みんな! 見にきてくれたんだね
司
はい! 勉強の一環として、
運営の方から声をかけていただいたので
運営の方から声をかけていただいたので
旭
そっか。よければ、あとで感想を聞かせてもらえると嬉しいよ
旭
今回のショーは、俺にとってもいろいろと特別だから
類
特別、というと?
旭
今回のショーは、トムの原案と演出なんだ
旭
事前情報がほとんど伏せられてるから、
まだ一般には公表されていないけどね
まだ一般には公表されていないけどね
類
そうなんですか……!
類
それは……おめでとうございます
旭
ありがとう。役者の道に進んだら、どこかで道が交わることも
あるかもしれないとは思っていたけど……
あるかもしれないとは思っていたけど……
旭
今回の話を聞いた時は、うまく反応できなかったな。
なかなか実感がわかなくて
なかなか実感がわかなくて
類
……その気持ちは、わかる気がします
舞台スタッフ
旭さーん! あと5分で稽古スタートです!
旭
おっと、そろそろ行かないとだ。
じゃあみんな、楽しんでいってくれ!
じゃあみんな、楽しんでいってくれ!
司
客席から応援しています!
えむ
がんばってください!
旭
『うわ、あちこち蜘蛛の巣が張ってる。
不気味な屋敷だな……』
不気味な屋敷だな……』
旭
『まあ、いい。
さっさと掃除をして売り払ってしまおう』
さっさと掃除をして売り払ってしまおう』
旭
『……ん?
今、廊下の先を何かが横切ったような——』
今、廊下の先を何かが横切ったような——』
役者A
『誰だ……?
屋敷に無断で立ち入る不届き者は…………』
屋敷に無断で立ち入る不届き者は…………』
旭
『うわあっ!?』
類
(——ショーの演目は、『グッバイ・ゴースト』)
類
(旭さんが演じる主人公のルークは、
幼い頃に家族を亡くした天涯孤独な青年だ)
幼い頃に家族を亡くした天涯孤独な青年だ)
類
(心根は優しいけれど、他人と関係を築くことが苦手なせいで
仕事も長続きせず、自暴自棄な生活を送っている)
仕事も長続きせず、自暴自棄な生活を送っている)
類
(そんなルークが、ある日突然
遠い親戚の遺産だという古い屋敷を
相続したところから、物語が始まっていく)
遠い親戚の遺産だという古い屋敷を
相続したところから、物語が始まっていく)
旭
『——オーケー、理解した。
俺の遠い親戚はものすごく変人で、
わざわざ本物の幽霊屋敷を買って住んでたわけだ』
俺の遠い親戚はものすごく変人で、
わざわざ本物の幽霊屋敷を買って住んでたわけだ』
役者A
『変人とは失礼な……。我々にとってはよき同居人だったぞ』
役者B
『うん! ここは友達もいっぱいで楽しいんだ~♪』
旭
『……その“友達”は全部で何人いるんだ?』
役者C
『ゴーストの数を聞いているのなら、
ざっと100人はいますわね』
ざっと100人はいますわね』
旭
『そんなに入るわけないだろ!!
……もしかして俺、いま誰か踏んでたりする!?』
……もしかして俺、いま誰か踏んでたりする!?』
寧々
ふふっ……
えむ
幽霊のお話だけど、あんまり怖くなくておもしろいね!
司
そうだな。コミカルなシーンも多いし、
これなら子供から大人まで安心して見られそうだ
これなら子供から大人まで安心して見られそうだ
類
…………
類
(屋敷に住み着くゴースト達は皆、気まぐれで自由奔放。
気に入らない入居者は、あの手この手で追い出してしまう)
気に入らない入居者は、あの手この手で追い出してしまう)
類
(金銭的に余裕のないルークは、一刻も早く
この屋敷を売ってしまいたいけれど……
このままでは安く買い叩かれる未来しか見えない)
この屋敷を売ってしまいたいけれど……
このままでは安く買い叩かれる未来しか見えない)
類
(悩んだ末に、ルークはある計画を思いつく)
類
(ゴーストがこの世に留まるのは、未練のため。
だから——その未練を全て解消してやれば、
ゴーストは屋敷からいなくなる)
だから——その未練を全て解消してやれば、
ゴーストは屋敷からいなくなる)
類
(悪戦苦闘しながらも、ルークはゴースト達の未練を聞き出し、
彼らの望みを次々と叶えていく……)
彼らの望みを次々と叶えていく……)
役者B
『ぼくがやりたいこと?』
旭
『思いつくものは全部言ってみてくれ。
できる限り叶えるから』
できる限り叶えるから』
役者B
『うーん。いっぱいあるけど……』
役者B
『……おとうさんとおかあさんと、
手をつないでお出かけしたいな』
手をつないでお出かけしたいな』
役者B
『ぼく、ずっと病気で、
ベッドで寝てるだけだったから……』
ベッドで寝てるだけだったから……』
旭
『…………』
類
(もう一度、大切な人に会いたい。
喧嘩別れしてしまった友人に謝りたい)
喧嘩別れしてしまった友人に謝りたい)
類
(そんな風に、ゴースト達の願いはどれも切実でささやかだ)
類
(一見、恨みに憑りつかれているように見えても、
その奥底には——)
その奥底には——)
役者C
『——協力してくれて感謝します、ルーク。
おかげですっきりしたわ』
おかげですっきりしたわ』
旭
『俺はただ、君の恋人だった男を
屋敷まで連れてきただけだけど……
本当に、あれでよかったのか?』
屋敷まで連れてきただけだけど……
本当に、あれでよかったのか?』
役者C
『いいのよ。悪霊のふりをして脅かしてやったから、
100年の恋も冷めたでしょう』
100年の恋も冷めたでしょう』
役者C
『実際、悪霊のようなものよ。
……わたくしを忘れられず、
泣き暮らすあの人を見るのは気分が良かったわ』
……わたくしを忘れられず、
泣き暮らすあの人を見るのは気分が良かったわ』
旭
『…………でも、それって悪いことなのか?』
旭
『誰だって、大切な人に忘れられたら……寂しいだろ』
役者C
『ええ。けれど、
それでもいいと思えるくらい——愛しているの』
それでもいいと思えるくらい——愛しているの』
寧々
……すごいね
司
……ああ。
旭さんが演じるルークは勿論だが——
旭さんが演じるルークは勿論だが——
司
舞台上では描かれていない、
ゴースト達の人生が目の前に浮かんでくるようだ
ゴースト達の人生が目の前に浮かんでくるようだ
類
(幽霊達の表情は、仮面に覆われていて見えない)
類
(生者と死者の超えられない壁の表現であり、
表情を観客の想像にゆだねることで、
より感情移入しやすくなる…………)
表情を観客の想像にゆだねることで、
より感情移入しやすくなる…………)
類
(演出のテクニックについては、分析も理解もできる)
類
(けれど——)
旭
『とうとう俺達だけになっちゃったな』
役者A
『ああ……。
よくあれだけのゴーストの未練を晴らしたものだ』
よくあれだけのゴーストの未練を晴らしたものだ』
旭
『あ、もしかしてこの酒って、そのご褒美?
すごい高そうな年代物だったけど』
すごい高そうな年代物だったけど』
役者A
『いや。生前に隠しておいて、
そのまま飲む機会を失っただけだが……』
そのまま飲む機会を失っただけだが……』
役者A
『お前のおかげで
“友と親しく酒を飲みたい”という未練が晴れた。
私も、今夜で屋敷を去ろう』
“友と親しく酒を飲みたい”という未練が晴れた。
私も、今夜で屋敷を去ろう』
類
(ゴースト達との賑やかな生活で、
孤独だったルークはこれまでにない安らぎを感じる)
孤独だったルークはこれまでにない安らぎを感じる)
類
(けれど、ゴーストを見送る度に、
自分がまたひとりになる未来も見えてきてしまう)
自分がまたひとりになる未来も見えてきてしまう)
類
(そしてこれが、最後の別れ……
ストーリー上の最も重要な見せ場だ)
ストーリー上の最も重要な見せ場だ)
旭
『……寂しい、って言ったら笑う?』
役者A
『いいや。
そう惜しまれるのは良き別れだ』
そう惜しまれるのは良き別れだ』
旭
『そっか…………。
うん、そうだよな』
うん、そうだよな』
旭
『……ひとりでいた頃は、
寂しいなんて思わなかったのにな』
寂しいなんて思わなかったのにな』
旭
『喉が詰まってるみたいに、苦しくて……。
泣きたくないのに、涙が止まらない』
泣きたくないのに、涙が止まらない』
旭
『でも……それでも、出会えてよかったよ。
お前にも、この幽霊屋敷にも』
お前にも、この幽霊屋敷にも』
旭
『——ありがとう』
榊
僕はファミリー向けの作品、結構好きなんだけどね。
単純に見えて奥深いでしょ、ああいうのって
単純に見えて奥深いでしょ、ああいうのって
類
(……ひとりまたひとり、ゴーストが消えていく度に、
賑やかだった舞台には空白が増え、
観客の心に寂しさの穴が開いていく)
賑やかだった舞台には空白が増え、
観客の心に寂しさの穴が開いていく)
類
(けれど、最後……この細いスポットライトに
照らし出された笑顔を見て、皆、実感する)
照らし出された笑顔を見て、皆、実感する)
類
(これは出会いと別れ——人生そのものを描いた物語だと)
類
(そして、全ての別れの果てにすら、
確かに幸福が存在することを……全身で、心の底から感じられる)
確かに幸福が存在することを……全身で、心の底から感じられる)
類
(……脚本も演出も、その差は明らかだ)
類
(いくら彼の演出に影響を受けていて、技術を真似たとしても)
類
(世界の深さも、語られる言葉の重みも。
何もかもが…………)
何もかもが…………)
類
……まだまだ、遠いな
類
(この差を埋めるためには、どうすればいいか……)
類
(まだ、見当もつかない。それでも——)
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