類の部屋
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(ショーの原案と脚本を考える前に……
まずは、前提を整理してみよう)
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課題は、『一からショーを作ること』
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アークランドで上演することを想定し、
完全なオリジナルであることが求められている
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そして目指すのは、誰もが楽しめて、
見終わった後に心がひとつになるような……そんなショーだ
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(そう。今日見た、『グッバイ・ゴースト』のような)
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……自己紹介のショーでも、目指したものは同じだ
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そして——“つまらない”という評価を受けた
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事実、僕の作るものと『グッバイ・ゴースト』の間には
大きな隔たりがある……
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(言葉にするのが難しいけれど……
トムの舞台には“深み”があった)
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(問題は、どうすればそれを自分でも表現できるかだ)
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テーマの深堀りに、演出上の視点の見直し……。
まずは、いろいろと試してみるしかなさそうだね
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数学教師
この公式は、今後もよく使うから覚えておけよー。
テストにも出すからな
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(深みのある描写をするには、
自分自身がその題材に深く精通している必要がある)
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僕でいえば……機械の製作や
舞台、学生生活などは身近な題材かな
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この中からいくつかの要素を組み合わせて……
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数学教師
…………
17
数学教師
神代。教科書の応用問題3、解いてみろ
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Xの2乗マイナス3です
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数学教師
………………正解
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(いくつか原案を練ってみたけれど、どれも決め手に欠けるな)
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(ショーとしては成立しているけれど……
既存作品の要素を切り貼りして、
無理やりまとめ上げたようにも見える)
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(何より……僕自身が、面白いとは思えない)
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——もう一度、やり直そう
数日後
スクランブル交差点
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全員揃ったね。
では、アークランドへ向かおうか
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ああ! しかし、お前……
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寧々
類、最近ちゃんと寝てる?
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え?
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寧々
目の下。クマができてる
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えむ
うん……それに、なんだか疲れてるみたい
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演出家コースの課題で何をやるかは聞いたが、
かなりハードなスケジュールなのだろう?
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多少の無理をしてでも食らいつきたい時があるのは、
オレも経験があるからわかる
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だが……あまり自分を追い込みすぎるなよ
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えむ
何か困ってたら、教えてね!
ちょっとなら手伝えることがあるかもしれないし!
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……ありがとう、みんな
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確かに、課題について考えることが多くて
寝不足気味ではあるけれど、大丈夫だよ
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超えるべき壁が見えたからね。
もう少しだけ、頑張ってみたいんだ
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寧々
……わかった。
でも、あんまり無理しすぎないでよ
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ああ
ワンダーランドのセカイ
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(……環境を変えれば、何かアイディアが湧く
きっかけになるかと思ったけれど)
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(どうも、頭がうまく働いていないみたいだ)
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……昼間は、みんなにも心配をかけてしまったな
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(役者側のワークショップも、かなりハードなはずだ。
それにこの後は、僕の課題に協力してもらうことになる)
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(原案と脚本が遅れれば、
その分だけ稽古に使える時間が減っていく)
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(それだけは、絶対に避けたい……)
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(……眠気のせいか、さっきから思考がまとまらない)
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(少しだけ、仮眠を取ろう)
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(————体が、重い)
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(何かが、足に絡みついているみたいだ……)
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???
『…………ねえ』
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なんだ? 今、どこかから声が——
51
???
『ねえ。どうして目を逸らすんだい?』
52
目を……? 一体、何を言っているんだ? 
53
???
『見ない振りをしても、消えはしないよ』
54
???
『だって、僕は——』
55
???
…………類くん
56
???
類くん、大丈夫?
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ルカ
……ああ、よかった。目が覚めたのね
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ルカさん……?
59
ルカ
起こしてしまってごめんなさい
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ルカ
でも、眠っている類くんが、なんだか苦しそうだったから
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眠って……
62
(ああ、そうか……。
さっきのは、夢だったのか)
63
——むしろ、起こしてもらえて助かったよ
64
でも、ルカさんはどうしてここに?
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ルカ
ふふ、ぬいぐるみさん達と一緒に
ステージで寝ようと思ったのよ~
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ルカ
今度やるショーのために、カイトくんが
ふわふわの雲みたいなクッションを
いっぱい作ってくれたの
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ルカ
ちょっとなら使ってもいいって言われたから、
みんなで寝てみましょうって
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ルカ
なんだか、すてきな夢が見られそうでしょう?
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なるほど。確かにいい夢が見られそうだね
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ルカ
類くんは……怖い夢を見ていたの?
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……どうかな。あまり覚えていないんだ
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ただ、妙な生々しさがあって——
目が覚めるまでは、あれが夢だと気づけなかったよ
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ルカ
そうだったのね……
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(だが、あの声……。
夢は一説に、深層心理の表れだと
言われることもあるけれど——)
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(もしかすると、自分が思う以上に
追い詰められているのかもしれないな)
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ルカ
——ねえ、類くん。
ちょっとなぞなぞをやってみない?
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なぞなぞ……?
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ルカ
ええ。きっと類くんなら簡単よ
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ルカ
悪い夢を見ているのに、それが夢だと気づけない時……
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ルカ
どうしたら、その人は目を覚ますことができるかしら?
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…………
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……誰か、他の人に起こしてもらう?
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ルカ
ぴんぽん♪ 大正解~
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まさに、さっきの僕と同じ状況だからね
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ルカ
ふふ、言ったでしょう?
類くんには簡単だ、って
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ルカ
自分だけじゃ気づけないことって、あると思うの。
誰か、他の人がいないと見えないものも
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ルカ
だから今、類くんが楽しい夢を見られないくらいに
悩んでいるなら……
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ルカ
今はきっと、起こしてくれる
誰かの力を借りる時なんじゃないかしら
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ルカ
特に今回は、頼りになる人が身近にいるでしょう?
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(……確かに、思いつく限りの方法は試した)
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(それでも、解決の糸口すら見えないのなら——)
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(僕がするべきことは、アプローチの方法を変えることだ)
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そうだね。いつまでも悪夢にうなされているわけにもいかない
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上手くいくかはわからないけれど……
できる限りの方法を試してみるよ
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ルカ
ええ。頑張ってね、類くん
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