数日後
アークランド 空き部屋
類
ヘッドセットとパソコンは……うん、問題なさそうだ
類
あとは約束の時間まで待機かな
類
(原案と脚本が未完成の状態で、
講師からのアドバイスをもらうことはできるか……)
講師からのアドバイスをもらうことはできるか……)
類
(駄目で元々というつもりで、
ワークショップの運営に相談してみたけれど。
こんなに早く対応してもらえるとは)
ワークショップの運営に相談してみたけれど。
こんなに早く対応してもらえるとは)
類
(それに、まさか……)
類
——時間だね
類
『本日は、お時間をいただきありがとうございます』
トム
『いいや。むしろ、相談を持ち掛けてくれて嬉しかったよ』
類
『……正直に言うと、驚きました。
あなたが、アドバイザーに立候補してくださったと聞いて』
あなたが、アドバイザーに立候補してくださったと聞いて』
トム
『現地に行けない分、
なるべく君達とコミュニケーションを取りたいからね』
なるべく君達とコミュニケーションを取りたいからね』
トム
『それと……君が自己紹介の時に見せてくれたショー。
あれが印象に残っていたのもある』
あれが印象に残っていたのもある』
トム
『送ってもらった原案と、
脚本の草稿も読ませてもらったよ』
脚本の草稿も読ませてもらったよ』
トム
『多くの人を楽しませたい、笑顔にしたい。
そんな気持ちと同時に——』
そんな気持ちと同時に——』
トム
『君が、何かを乗り越えようと
必死にもがいているのが伝わってきた』
必死にもがいているのが伝わってきた』
類
『……はい。
ワークショップに参加して、
自分の課題が何かがはっきりと見えました』
ワークショップに参加して、
自分の課題が何かがはっきりと見えました』
類
『今日、ご相談の時間をいただいたのは、
それを乗り越える手掛かりを見つけるためです』
それを乗り越える手掛かりを見つけるためです』
類
『少し、長い話になりますが——』
トム
『……なるほど。
もっと深みのあるショーを作りたい、か』
もっと深みのあるショーを作りたい、か』
類
『はい。先日、“グッバイ・ゴースト”の通し稽古を
見学させていただきました』
見学させていただきました』
類
『比べること自体が
おこがましいのは承知の上ですが——』
おこがましいのは承知の上ですが——』
類
『今の僕では、あそこまで人の心を
揺さぶるようなショーは作れない。そう痛感しました』
揺さぶるようなショーは作れない。そう痛感しました』
トム
『…………』
類
『あれから、演出方法や脚本の構成について
自分なりに分析して、取り入れられる部分があるか
どうかも検討してみました』
自分なりに分析して、取り入れられる部分があるか
どうかも検討してみました』
類
『しかし結果は、参考作品を
切り貼りした歪なものにしかならなかった』
切り貼りした歪なものにしかならなかった』
類
『何か考え方の方向性そのものに
誤りがあるのではないかと……そう思っています』
誤りがあるのではないかと……そう思っています』
トム
『それで、講師から客観的な意見を聞こうと思ったわけだね』
類
『はい。漠然とした質問になってしまい、
申し訳ないのですが……』
申し訳ないのですが……』
類
『もし、何か気づかれたことがあれば、
率直な意見を聞かせていただけませんか?』
率直な意見を聞かせていただけませんか?』
トム
『……そうだね。
君の原案や脚本、演出が悪いものだとは思わない』
君の原案や脚本、演出が悪いものだとは思わない』
トム
『さっきも言った通り、
観客を楽しませようという想いが伝わってくるし、
それを実現するだけの技術も情熱もある』
観客を楽しませようという想いが伝わってくるし、
それを実現するだけの技術も情熱もある』
トム
『ただ、それでも“足りない”“深みがない”と
君が感じるのであれば——』
君が感じるのであれば——』
トム
『必要なのは、君自身の感情や経験だと思う』
類
『僕自身の……ですか?』
トム
『ああ。君はいつも、どんなことを考えて
演出をしているんだい?』
演出をしているんだい?』
類
『………………』
類
『——僕は昔、あなたがインタビューを受けている
映像を見たことがあります』
映像を見たことがあります』
類
『“富める人、貧しい人、賢い人、愚かな人、
マジョリティ、マイノリティ——すべて関係ない”』
マジョリティ、マイノリティ——すべて関係ない”』
類
『“すべての人が、
共に笑い、泣き、怒り——”』
共に笑い、泣き、怒り——”』
類
『“そうして見終わった瞬間には、
同じ感情でつながれる”』
同じ感情でつながれる”』
類
『そういうショーを、ずっと目指してきました』
トム
『うん』
類
『ショーを作る際、一番に考えるのは
それを見終えた観客にどんな想いになってほしいかです』
それを見終えた観客にどんな想いになってほしいかです』
類
『そのうえで、最も観客に響く演出は何か……』
類
『ショーを上演する場所や客層などから
題材を考えていくことが多いです』
題材を考えていくことが多いです』
トム
『なるほど。
君が一番に考えるのは、届けたい相手のことなんだね』
君が一番に考えるのは、届けたい相手のことなんだね』
トム
『それ自体は、とても素晴らしいことだけれど……』
トム
『その過程で、自分自身を無意識に抑え込んではいないかい?』
類
『え……』
類
(自分自身を、抑え込む……?)
類
『どちらかといえば、僕は我が強い方だと思います』
類
『自分を曲げることができずに、
演出の仕方で周りと衝突することも多い』
演出の仕方で周りと衝突することも多い』
類
『今所属している劇団に出会えるまでは、
ずっとひとりでショーをやり続けていました』
ずっとひとりでショーをやり続けていました』
トム
『君が自分を曲げないのは、
より良いショーを作りたいからだろう?』
より良いショーを作りたいからだろう?』
トム
『そして君が思う“良いショー”とは、
多くの観客に笑顔になってもらえるもののことだ』
多くの観客に笑顔になってもらえるもののことだ』
トム
『つまり君は、演出において
必要以上に自分の感情を入れないようにしている』
必要以上に自分の感情を入れないようにしている』
トム
『そうすることで、誰もが共感できるショーを
生み出すことができるからね』
生み出すことができるからね』
類
『…………』
トム
『もちろん、それが悪いわけではないよ。
むしろ演出家としては理想的な姿勢かもしれない』
むしろ演出家としては理想的な姿勢かもしれない』
トム
『ただ……時には、深い感情が必要なショーがある』
トム
『そんな時——ショーに深みを与えるのは、
演出家自身だと思うんだ』
演出家自身だと思うんだ』
トム
『想像や借りものではない、
自分の中から出てきた感情や経験』
自分の中から出てきた感情や経験』
トム
『勿論、やりすぎると単なる
自分語りになってしまうから注意が必要だけれど——』
自分語りになってしまうから注意が必要だけれど——』
トム
『自分でも触れるのを躊躇うほど、
生々しく強い感情や経験が……作品に深みを与える。
僕は、そう思っているんだ』
生々しく強い感情や経験が……作品に深みを与える。
僕は、そう思っているんだ』
類
(……生々しいほど、強い感情や経験か)
幼い類
……ねえお母さん。
僕って、みんなと違うのかな?
僕って、みんなと違うのかな?
幼い類
頑張って話しても、僕が楽しいって思うこと、
みんなに全然伝わらなくて……
みんなに全然伝わらなくて……
幼い類
先生もクラスの子も、僕はみんなと違うって言うんだ
類
僕のアイディアを見て、『できたら面白いだろう』と言ってくれる
人も少しはいたんだ
人も少しはいたんだ
類
でも、そういう人達すら、僕が新しいアイディアを持っていくと
段々煙たがるようになっていってね
段々煙たがるようになっていってね
類
そんなことを繰り返すうちに……、
気づいたらひとりになっていたんだ
気づいたらひとりになっていたんだ
類
(だけど——今回わかったことがひとつある)
類
(今僕は、自分で思う以上に、
みんなとショーをやっていたいんだ——)
みんなとショーをやっていたいんだ——)
類
(……そういったものなら、僕の中にもある)
類
(子供の頃に感じた孤独。
周りとうまくやっていけない無力感)
周りとうまくやっていけない無力感)
類
(ショーと、仲間と出会えた喜び。
そして、仲間と離れがたく思う葛藤。
そういったものが……たくさん)
そして、仲間と離れがたく思う葛藤。
そういったものが……たくさん)
類
(けれど——)
トム
『——何か、掴めないことがあるのかな?』
類
『いえ……仰ることはわかります。
ですが——』
ですが——』
類
『ひとつ、聞かせてください』
類
『あなたのショーにも……自分自身の感情や経験が
含まれていると思いますか?』
含まれていると思いますか?』
トム
『……そうだね。
にじみ出てしまっているところはあるんじゃないかな』
にじみ出てしまっているところはあるんじゃないかな』
トム
『“グッバイ・ゴースト”の幽霊達には、
僕が今まで見送ってきた両親や、
友人達が紛れ込んでいる気がするしね』
僕が今まで見送ってきた両親や、
友人達が紛れ込んでいる気がするしね』
トム
『どれも、他人に話すには少し重い話かもしれないけれど——』
トム
『彼らと過ごした日々や、貰ったものは、
今も舞台の上で生き続けている』
今も舞台の上で生き続けている』
トム
『虚構ではあるけれど、嘘じゃない。
だからこそ、それを見た観客の心に、
何かを残せるんじゃないかな』
だからこそ、それを見た観客の心に、
何かを残せるんじゃないかな』
類
『そう、ですね——』
類
『……今までにも、自身の経験や感情を
ショーに反映させたことはあります』
ショーに反映させたことはあります』
類
『けれど、今の話を聞いて……
無意識のうちにブレーキをかけていたのかも
しれないと思いました』
無意識のうちにブレーキをかけていたのかも
しれないと思いました』
類
『自分の生々しい感情を入れたショーが、
観客に受け入れられることはない、と』
観客に受け入れられることはない、と』
類
『だから——踏み込むことができなかった』
類
『けれど……』
類
(……自分の中から出てくるものでしか、
深みのある作品は作れない。それなら……)
深みのある作品は作れない。それなら……)
類
『自分自身をもっと解放して、そのうえでたくさんの人を
楽しませるショーを作ることを目指す……』
楽しませるショーを作ることを目指す……』
類
『難題ですが、挑戦のし甲斐がありそうですね』
トム
『ああ。
……どんなショーを見せてもらえるか、楽しみにしているよ』
……どんなショーを見せてもらえるか、楽しみにしているよ』
類
(……おかげで、やるべきことは見えてきた。
ショーの中で何を描くべきなのかも)
ショーの中で何を描くべきなのかも)
類
(この感情は、ショーにするには
ドロドロとしすぎているかもしれないけれど——)
ドロドロとしすぎているかもしれないけれど——)
類
(やってみよう。
……自分の限界を、超えるために)
……自分の限界を、超えるために)
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