翌日
宮益坂女子学園 3年E組
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(昨日、遅くまで雑誌を読んでたから、ちょっと眠いわね……)
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ふわぁ……
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あっ……
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(いけない。誰が見てるかわからないし、ちゃんとしなくちゃ)
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愛莉
あら、おはよう雫!
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愛莉ちゃん!
おはよう、ちょっと久しぶりだね
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愛莉
そうね、1カ月ぶりくらい?
アンタ最近、忙しそうだものね
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愛莉
あ、そういえば見たわよ。
新作リップのCM!
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愛莉
相変わらず、テレビで見ると別人みたいね。
ちょっとドキッとしちゃったわ
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ふふ、ありがとう
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愛莉
……よかったわね。
いろいろあったけど、今の仕事もちゃんと軌道に乗って
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あ……うん
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(愛莉ちゃんと一緒に、同じ夢を目指せないのは
やっぱり寂しいけど……)
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(愛莉ちゃんは、まだ夢を追いかけてて……
とっても嬉しいわ)
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(昔からずっと、愛莉ちゃんは
たくさんの元気をくれるアイドルだから)
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(あの時も——)
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愛莉
はっきりしなさいよ! 中途半端な態度が一番良くないのよ!
アンタがそんなだと、ファンだって不安になるじゃない!
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わかってる。わかってるけど……
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……………………
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愛莉
……どうして、何も言わないのよ。
そんなの、認めてるようなものじゃない!
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……ええ……
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……ウワサは、本当なの。
少し前から、メンバーとうまくいってなくて……
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愛莉
……詳しく聞かせてくれる?
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(……愛莉ちゃんにわかってもらえて、本当に心強かった)
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(進む道は違うけど……
私も支えになれるように、愛莉ちゃんの夢を応援しましょう)
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……私も、ななみんさんとのコラボ配信見たよ。
すごく面白かった
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愛莉
本当? ……なら、がんばった甲斐があったわね
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愛莉
まあ、わたしは喋ってただけだし、
雫とは全然違うと思うけど
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え? 違うって……
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愛莉
ほら、雫は見てる人にキラキラした気持ちとか、
自分もがんばろう!って気持ちを届けてるじゃない?
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愛莉
でも、わたしはそういう感じじゃないから
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愛莉ちゃん……
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——そんなことないよ
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私はいつも、愛莉ちゃんにそういう気持ちをもらってるよ
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愛莉
え……
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丁寧にコメントを拾ってリクエストに応えたり、
みんなに楽しんでもらえるように振る舞ったり……
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愛莉ちゃんの、そういうファン想いで一生懸命なところに、
ずっと憧れてるの
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それに私、アイドルを辞めたばっかりの頃は
心に穴が開いたみたいで、何も考えられなかったけど……
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こうして前に進めたのも、
初めて会った時と変わらない愛莉ちゃんの姿を見て、
私もがんばりたいって思ったからだよ
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だから……いつも本当にありがとう
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愛莉
雫……
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愛莉
……こっちこそ。
雫にそう言ってもらえて本当に嬉しいわ
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愛莉
これからもお互い、
ハートを大事にがんばっていきましょ!
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うん!
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愛莉
でも——がんばりすぎは感心しないわね
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えっ?
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愛莉
だってほら……目の下にクマができてるじゃない!
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あ……。
昨日、遅くまでファッションの勉強をしてたから……
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愛莉
もう……一生懸命なのはわかるけど、
ちゃんと息抜きもするのよ?
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息抜き……
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それなら……今日は久しぶりに
愛莉ちゃんとお昼ご飯を食べたいな
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愛莉
えっ?
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愛莉ちゃんと話してると楽しくて、
リフレッシュになるから……だめかな?
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愛莉
あ~……だめってわけじゃないんだけど、
今日は先約があるのよね
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先約?
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愛莉
ええ。後輩とお昼を食べる約束してて
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愛莉
その子、アイドルをやっててね。
駅前でビラをもらって、ライブを見に行ったのよ
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愛莉
そしたら、なんとここの生徒だったの
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そうなんだ……すごい偶然だね
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愛莉
でしょ? で、ライブの感想伝えがてら
一緒にお昼でもって話になったんだけど……
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愛莉
よかったら、雫も一緒に来る?
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えっ? でも、その子は愛莉ちゃんと話したいんじゃ……
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愛莉
そこは大丈夫よ。アイドル全般のファンみたいだから、
むしろ雫が来てくれたら大喜びすると思うわ
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愛莉
ただ……気を遣っちゃうのなら、別の日にふたりで食べましょ!
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……そうね……
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(アイドルファンの子なら、
きっと私を“何でもできる完璧な人”って思ってるわよね)
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(そうなると、やっぱり気は抜けなそうだけど……)
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(次に愛莉ちゃんと会えるのが
いつになるかわからないし、
後輩がどんな子なのかも気になるし——)
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……ありがとう。
そういうことなら、お邪魔してもいいかな?
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愛莉
オッケー、決まりね!
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愛莉
あ、予鈴なっちゃった。
じゃ、またあとでね
昼休み
中庭
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愛莉
『木の下のベンチに座ってるわね』……っと
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愛莉
よし、場所連絡したからもうすぐ来ると思うわ
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ありがとう。花里みのりちゃん……よね?
楽しみだな
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(でも……幻滅させてしまわないように、
気をつけなくちゃ……!)
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みのり
もーもーいーせんぱーいっ!
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えっ?
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みのり
はあ、はあ……お待たせしました!
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愛莉
待たせたも何も、さっき連絡したばっかりよ
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とても急いで来てくれたみたいね
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みのり
はい! 一緒にご飯食べるの、すっごく楽しみにしてたので!
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みのり
——って……ええっ!?
あ、あなたは……!
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愛莉
ふふ。スペシャルゲストの日野森雫先輩よ!
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よろしくね、みのりちゃん
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みのり
はわわ……
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みのり
す、すごい……!
周りの空気まで光ってる!
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突然お邪魔してごめんなさいね。
私も入れてもらってもいいかしら?
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みのり
も、もももももちろんです!
なんならわたし、少し離れておふたりのこと見守ってますから!
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愛莉
なんでそうなるのよ。今日の主役はアンタでしょ?
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みのり
えっ……?
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愛莉
ライブの感想、伝えるって言ったじゃない
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私も、どんなライブだったのか気になるわ。
アイドルに厳しい愛莉ちゃんのお墨付きだもの
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愛莉
ほら、こっち来て真ん中座りなさい
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みのり
はい! えへへ……失礼します!
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愛莉
——それで、一生懸命踊ってるみのりを見て
わたしもがんばろうって思ったの
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みのり
わ……、わあ……!
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みのり
ありがとうございます!
アイドルの大先輩の愛莉ちゃんに
そう言ってもらえるなんて、嬉しいです!
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すごいわね。
愛莉ちゃんがこんなに誰かを褒めるの、珍しいのよ?
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みのり
え、そうなんですか?
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ええ。私のことも、滅多に褒めてくれないもの
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愛莉
たまに褒めれば十分でしょ
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みのり
ふふ、ふたりはとっても仲良しなんですね!
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みのり
あ、そういえば……
わたしもクラスに仲良しの友達がいるんですけど、
志歩ちゃんって、日野森先輩の妹さんなんですよね?
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えっ? みのりちゃん、しぃ……妹とお友達なの?
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みのり
はい! いつもたくさんお世話になってます!
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そうだったのね……!
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……妹と仲良くしてくれてありがとう、みのりちゃん
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それで……妹とは、どんな話をしているの?
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みのり
えっと、宿題のこととか、嬉しかったことの話とか……
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みのり
あ! あとあと、よくうさぎさんの話をしてます!
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うさぎさん?
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みのり
志歩ちゃんって、飼育委員じゃないですか。
わたし、1年生の時やってたので
たまに一緒にお世話してるんです!
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みのり
それで——
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待ってちょうだい
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しぃちゃん、飼育委員だったの……?
初耳だわ
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愛莉
そりゃ、高校生なんだし
なんでもかんでも家族に話したりしないでしょ
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そうかもしれないけど……
教えてくれても良かったのに
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……でも、しぃちゃんはかわいい動物が大好きだから、
ぴったりのお仕事ね
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みのり
そうなんです!
とっても大事にお世話してるんですよ
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みのり
1匹1匹の性格をメモして、
抱っこの仕方とかなで方を変えてるみたいで……
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みのり
志歩ちゃんっていつもはクールな感じだけど、
面倒見がよくて優しいですよね!
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そうなのよ……!
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この前もね、駅で迷子になってたら、
わざわざ迎えに来てくれたのよ
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みのり
え……迷子?
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愛莉
ちょ、雫……!
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えっ? あ……!
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(い、いけない……!
しぃちゃんの話をできるのが嬉しくて、つい気が緩んじゃったわ)
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えっと……迷子、ではなくて……
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地図を見ても自分がどこにいるのか、
わからなくなってしまったの
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愛莉
それを迷子と言わずして、何て言うのよ!
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愛莉
って、ヤバ……
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みのり
日野森先輩って……
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(どうしましょう、みのりちゃんを
がっかりさせてしまっていたら……)
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みのり
ちょっと天然なところもあるんですね!
かわいいなあ……!
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え……
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みのり
あ、ごめんなさい! 先輩なのに……!
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愛莉
——そうなの。
これでけっこう抜けてるのよ?
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愛莉
だから、時々手がかかるんだけど……
なんだかんだ癒されてたりするのよね
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みのり
あ、それちょっとわかるかもしれません!
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みのり
テレビや雑誌で見る雫ちゃんは、綺麗でかっこよくて
雲の上の人ってイメージだったんですけど……
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みのり
志歩ちゃんの話をしてる日野森先輩は、
すごく優しそうな顔をしてて……
なんだか、あったかい気持ちになるなあって
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みのり
それに、ギャップも知れて嬉しかったです。
失礼かもですけど、ちょっと親近感わいちゃいました!
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みのりちゃん……
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(そんなふうに、言ってくれるなんて……)
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(ありのままの私じゃ、
周りを失望させるだけだって思ってたけど……)
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(こんな風に、受け入れてくれる子もいるのね)
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(でも……)
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みのりちゃん。このことは、
私達だけの秘密にしてもらえないかしら?
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みんなの前では、いつだって完璧な日野森雫でいたいから……
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みのり
そうなんですか?
今の雫ちゃんも、とってもステキだなって思いますけど……
151
みのり
先輩がそう言うなら、わかりました!
わたし、墓場まで持っていきます!
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ありがとう、みのりちゃん
153
みのり
でも、あの……
154
みのり
時々でいいので、今みたいな日野森先輩も
見たいな~、なんて……
155
そう言ってもらえて嬉しいわ
156
みのり
えへへ、よかったです!
157
(……なんだか、息がしやすい気がする)
158
(どんな時も、求められる姿でいなくちゃって思ってたけど……)
159
(この場所でなら……もう少し、
力を抜いてもいいのかもしれないわ)
160
???
ありのままの雫ちゃんを受け入れてくれる人は、
きっといるはずよ
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(えっ……?)
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(今の……空耳かしら?)
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(でも——そうね)
164
ねえ、みのりちゃん。
よかったら、また一緒にご飯を食べてもいいかしら?
165
みのりちゃんのことも、もっと知れたら嬉しいわ
166
みのり
……! はい!
じゃあ、とっておきの自己PRを考えてきますね!