乃々木公園
司
いっちにっさんっしィ~!!
えむ・寧々
『ごーろくしちはち!』
司
ぃよーし!
準備運動も終わったところで次は発声に——と思ったが……
準備運動も終わったところで次は発声に——と思ったが……
司
類が来ないな。
今日は脚本を持ってくると言っていたというのに
今日は脚本を持ってくると言っていたというのに
寧々
今朝は『書き上げたから最終確認が終わり次第行く』って
言ってたんだけど……あっ
言ってたんだけど……あっ
えむ
類くんだ!
類くん、おはよ~っ!!
類くん、おはよ~っ!!
寧々
遅かったね。
一体何して、って……
一体何して、って……
類
……だから……レンブラントライトを……、
ラストは暗転せず……
ラストは暗転せず……
えむ
あれれ~!?
類くん、あっちに行っちゃった!!
類くん、あっちに行っちゃった!!
司
な、なんだ!?
どうしたんだ!? おい、類~!!
どうしたんだ!? おい、類~!!
類
はっ……
類
はは、すまないね。
演出プランを考えながら歩いていたら、
周りが見えなくなってしまっていたみたいだ
演出プランを考えながら歩いていたら、
周りが見えなくなってしまっていたみたいだ
司
なるほど……類らしいといえば類らしいが……。
事故にだけは気を付けるんだぞ?
事故にだけは気を付けるんだぞ?
司
——それで、どうだ。脚本の方は
類
今の僕の全てを出し切れたと思うよ
寧々
自信、ありそうだね
類
フフ。
ワークショップでの経験と反省を生かした、渾身の一作だからね
ワークショップでの経験と反省を生かした、渾身の一作だからね
司
——ならばよし!
さっそく読ませてくれ!
さっそく読ませてくれ!
類
ああ!
司
『プリンセスと呪いの花』……
えむ
おお~! お姫様が主人公なんだね!
類
アークランドは開園当初から、
『誰でもプリンセス』というコンセプトを掲げているからね
『誰でもプリンセス』というコンセプトを掲げているからね
類
そしてこのコンセプトはそのまま、
今回の僕達に与えられたショーのテーマでもあり——
今回の僕達に与えられたショーのテーマでもあり——
司
それをどう料理するかが、
各劇団の腕の見せ所というわけだな
各劇団の腕の見せ所というわけだな
類
ああ、その通りさ
司
…………ふむ
司
(冒頭はコメディタッチだが……
なるほど、中盤から毛色が変わるな)
なるほど、中盤から毛色が変わるな)
司
(演技もここからテイストを変えていくべきだろう。
それから——)
それから——)
司
(……なるほど。こういう展開になっていくのか)
司
(では、王子はどうなってしまうんだ?
続きは——)
続きは——)
司
…………
司
類!!
類
なんだい?
司
この脚本——おもしろいぞ!!
司
途中まで演技プランを考えながら読んでいたが、
最後はすっかりのめりこんでしまった。
さすがだな!
最後はすっかりのめりこんでしまった。
さすがだな!
寧々
うん……!
『大切な人を愛をもって導けば、誰もがプリンセスだ』
っていうメッセージがすごくいいな
『大切な人を愛をもって導けば、誰もがプリンセスだ』
っていうメッセージがすごくいいな
えむ
ねえねえ、早く読み合わせしよっ!
あ、でもその前に発声練習しなくちゃだよね!
あ、でもその前に発声練習しなくちゃだよね!
類
……ありがとう。
そう言ってもらえると、考え抜いた甲斐があったよ
そう言ってもらえると、考え抜いた甲斐があったよ
類
それじゃあ、発声をしたら、すぐ読み合わせに入ろう!
寧々
——みんな準備できたみたいだし、いくね!
司
ああ!
司
(……今回の主役は、プリンセス——姫役の寧々だ)
司
(そしてオレは準主役の王子。
王道ならば、姫と王子のラブストーリーになりそうだが……)
王道ならば、姫と王子のラブストーリーになりそうだが……)
司
(このショーは、その先の物語だ)
司
『姫! かの魔王を打ち倒し、お迎えに参りました!』
寧々
『ああ、王子……! 愛しい人!
あなたとならば、どこまでも行けましょう!』
あなたとならば、どこまでも行けましょう!』
類
『そうしてふたりは結ばれ、幸せに暮らしましたとさ。
めでたし、めでたし』
めでたし、めでたし』
類
『——そしてここからはその先。
めでたしめでたしの、後のお話です』
めでたしめでたしの、後のお話です』
寧々
『——はい、パンよ。
家族みんなで分けて食べてね』
家族みんなで分けて食べてね』
寧々
『ふぅ。これで今日配る分は全部かな』
えむ
『ハート様~! 今日もお疲れ様ですっ!』
えむ
『貧しい民に食事を恵む!
我が国の姫として、立派なお心がけでございますね!』
我が国の姫として、立派なお心がけでございますね!』
寧々
『ありがと。
でも、別に褒めてもらうようなことじゃないよ』
でも、別に褒めてもらうようなことじゃないよ』
寧々
『この国に来たばっかりの私にできるのは、
これくらいってだけだし』
これくらいってだけだし』
寧々
『それに、隣の国との衝突が続いて
国のお金がそっちに使われてるから、
ご飯が食べられない人も増えてるしね……』
国のお金がそっちに使われてるから、
ご飯が食べられない人も増えてるしね……』
寧々
『……にしても、はぁ。
もう10日かぁ……』
もう10日かぁ……』
寧々
『あいつってば、全然会いに来ないんだから!』
えむ
『あら! ハート様ったら!
そんなに恋しいなら、働いてばかりいないで
ブレス王子に会いにいけばいいじゃありませんか』
そんなに恋しいなら、働いてばかりいないで
ブレス王子に会いにいけばいいじゃありませんか』
寧々
『それはそうだけど……
なんかちょっとムカつくの!』
なんかちょっとムカつくの!』
寧々
『あいつってば、最初は“俺の永遠の愛を君に捧ぐ!”なんて
言ってたくせに、最近は全然会いにきてくれないんだもん!』
言ってたくせに、最近は全然会いにきてくれないんだもん!』
えむ
『それは仕方ないことですよ。
王子には、王の跡を継いで国をまとめるという
大切なお仕事があるんですから』
王子には、王の跡を継いで国をまとめるという
大切なお仕事があるんですから』
寧々
『それはそうだけど……はぁ。
ちょっと気分転換に散歩に行ってくる』
ちょっと気分転換に散歩に行ってくる』
えむ
『はい! いってらっしゃいませ!』
司
『——ハート!
ハート、どこだ!』
ハート、どこだ!』
えむ
『あら?
王子、ハート様はちょうど散歩に行かれましたよ』
王子、ハート様はちょうど散歩に行かれましたよ』
司
『なんと…!
ようやく時間ができたというのに……』
ようやく時間ができたというのに……』
類
『——王子。
まだ執務のお時間ですよ。どこに行かれるのですか?』
まだ執務のお時間ですよ。どこに行かれるのですか?』
司
『うっ、ニド……!
はぁ、わかったわかった……』
はぁ、わかったわかった……』
司
(——と、王子の忙しさもあって、
ふたりはすれちがい気味だ)
ふたりはすれちがい気味だ)
司
(そんな時、第二王子を担ぎ上げたい側近が、
王座を奪うための策略を企てる)
王座を奪うための策略を企てる)
司
(側近は王国に封印されていた
『呪いの花』で王子に呪いをかけ——)
『呪いの花』で王子に呪いをかけ——)
司
(呪いをかけられた王子は、
少しずつ絶望にさいなまれていく。すると——)
少しずつ絶望にさいなまれていく。すると——)
司
『よーし! 今日の仕事はこれで終わりだ!』
寧々
『え?
このあとは、隣の国の使者と調停の話をする予定じゃ……』
このあとは、隣の国の使者と調停の話をする予定じゃ……』
司
『……そんなことをしても国の仲は良くならないだろう?』
司
『それよりはハートと遊びに行ったほうがいいさ!』
寧々
『あ……』
寧々
『……本当にいいのかな?
なんだかブレスらしくない気がするけど……』
なんだかブレスらしくない気がするけど……』
寧々
『でも、久しぶりにふたりで出かけられるのは嬉しいし……』
司
『前に、湖でボートに乗りたいと言っていただろう?
今日は天気もいいし、乗ろうじゃないか!』
今日は天気もいいし、乗ろうじゃないか!』
寧々
『え、本当?
……じゃあ、新しいドレスに着替えてくる!』
……じゃあ、新しいドレスに着替えてくる!』
司
(最初、姫は王子が
自分との時間を大切にしてくれているのだと喜ぶ)
自分との時間を大切にしてくれているのだと喜ぶ)
司
(しかし、デート先の湖で出会った妖精により
王子にかけられた呪いに気づき——)
王子にかけられた呪いに気づき——)
司
(姫は王子と共に呪いを解く旅に出る。
しかし……)
しかし……)
えむ
『王子さま~!
もう、いい加減歩いてよ~!』
もう、いい加減歩いてよ~!』
えむ
『王子さまが自分で花を抜かないと、
呪いは解けないんだよ!?』
呪いは解けないんだよ!?』
司
『……わかっている、妖精!
だが、どうしても体がいうことをきかない……』
だが、どうしても体がいうことをきかない……』
司
『頭の中で何かがささやいているんだ。
呪いの花を抜いても無駄だ。何も変わらないと……』
呪いの花を抜いても無駄だ。何も変わらないと……』
寧々
『ブレス……』
類
(『呪いの花』の威力は、花に近づくほど増していく)
類
(呪いを解こうと進むほどに
王子は自分でもどうしようもないほどの
虚無感に苛まれていき——)
王子は自分でもどうしようもないほどの
虚無感に苛まれていき——)
類
(目的地である山の頂にたどり着く頃には、
完全に絶望してしまっている)
完全に絶望してしまっている)
司
『……もう、いい』
司
『ありがとう、ハート……。
だがもう無理だ……俺にはどうにもできない』
だがもう無理だ……俺にはどうにもできない』
寧々
『ブレス! ブレスったら!
あなたらしくもないわ!』
あなたらしくもないわ!』
司
『…………いいんだ。もう』
司
『俺が何をしようと、
人は憎み合い、国は争い続ける』
人は憎み合い、国は争い続ける』
司
『平和のためにどうすればいいのか考え続けても、
行動し続けても、どうせ……何も変わらない』
行動し続けても、どうせ……何も変わらない』
司
『——全て、無意味だ』
寧々
『ブレス!!』
寧々
『——許さない!』
寧々
『私はあなたと行きたい!
あなたと共にある未来を生きたい!』
あなたと共にある未来を生きたい!』
寧々
『だから……諦めるなんて、絶対に許さない!』
寧々
『もし全てに意味がないとしても、
見つかるまで、私が一緒に歩き続けるから!』
見つかるまで、私が一緒に歩き続けるから!』
寧々
『だから——立って!!』
司
(姫は王子の背を押して山道を登り、
どうにか花のもとへとたどり着く)
どうにか花のもとへとたどり着く)
司
(そうして呪いの花を抜き——)
類
……うん。いいね
類
読み合わせの時点で、みんなかなり役を掴んでくれている。
正直、驚いたよ
正直、驚いたよ
えむ
やった~!!
寧々
よかった……。
ふふ、この役好きだな。なんか自然と力が入るっていうか
ふふ、この役好きだな。なんか自然と力が入るっていうか
司
ああ!
ハートの諦めの悪さは実に寧々らしいしな!
ハートの諦めの悪さは実に寧々らしいしな!
寧々
ちょっと、どういう意味?
司
ハッハッハ! そのままの意味だ!
熱演を期待しているぞ!
熱演を期待しているぞ!
司
(実際、この役は寧々のハマり役だろう。
ひねくれたところもあるが、情熱的で、
困難に立ち向かう強さを持っている)
ひねくれたところもあるが、情熱的で、
困難に立ち向かう強さを持っている)
司
(……今回注意する必要があるのは——オレの方だ)
司
(愛をもって情熱的に行動する……。
こういった性格の役は慣れている。
だが……)
こういった性格の役は慣れている。
だが……)
司
(ブレスは、呪いに囚われ徐々に絶望していく)
司
(その心情を説得力ある演技で示さねば、
寧々がどれだけ奮闘しても
ショー全体が軽いものになるだろう)
寧々がどれだけ奮闘しても
ショー全体が軽いものになるだろう)
司
(『絶望していく王子』……。
この表現を突き詰めていかなければな)
この表現を突き詰めていかなければな)
えむ
ほよ?
誰かのスマホが鳴ってるよ?
誰かのスマホが鳴ってるよ?
類
ああ、僕のようだね。
……ん?
……ん?
司
どうしたんだ?
類
……意外な人物からかかってきてね
類
——旭さんだ
司・えむ・寧々
『え!?』
Next Chapter: 合同練習!?