数日後
墓所
奏
……これでよし、と
奏
(曲作りに夢中になってて、うっかりしてたな)
奏
(いつもこの時期は……お母さんのお墓参りに来てるのに)
奏
……ごめんね、お母さん
奏
その分、今日はたくさん話そう
奏
お母さんの好きなカーネーションも買ってきたんだ。
……今お供えするね
……今お供えするね
奏
うん、きれい
奏の祖母
——奏ちゃん、お掃除は終わったかしら
奏
あ……うん。
お花もお供えしたよ
お花もお供えしたよ
奏の祖母
ありがとう、とってもきれいね
奏
そうだね……
奏の祖母
それじゃあ、フルーツとお菓子もお供えしましょう。
お団子に、落雁に——
お団子に、落雁に——
奏の祖母
お母さんが大好きな、薄皮まんじゅう
奏の祖母
病院にいた時、奏ちゃんと一緒に
よく食べていたわよね
よく食べていたわよね
奏
そう、だったね……
奏
病院の近くに、できたてを売ってくれるお店があって
よくお母さんのために買いに行ってたっけ
よくお母さんのために買いに行ってたっけ
奏の祖母
ふふ、そうね
奏の祖母
そうだ、奏ちゃんも食べない?
まだたくさんあるのよ
まだたくさんあるのよ
奏
え……大丈夫だよ。
お母さんにあげてほしいな
お母さんにあげてほしいな
奏の祖母
お母さんには、もうたくさん供えてるもの。
それに——
それに——
奏の祖母
あの頃みたいに、奏ちゃんと一緒に食べられたら
きっとお母さんも嬉しいと思うの
きっとお母さんも嬉しいと思うの
奏
あ……
奏
…………それなら、ひとつもらおうかな
奏の祖母
ええ。はい、どうぞ
奏
うん
奏
……美味しい
奏
(……一緒に、か)
奏
(今、お母さんも食べてくれてるのかな)
奏の祖母
……ふふっ
奏
え、どうしたの?
奏の祖母
ああ、ごめんなさい。
……奏ちゃん、優しい顔になったなあって思ったの
……奏ちゃん、優しい顔になったなあって思ったの
奏
優しい……?
奏の祖母
ええ。ちょっと前までは、お母さんのお墓に来ても
どこか苦しそうで……自分を責めているように見えて
どこか苦しそうで……自分を責めているように見えて
奏の祖母
……話しかけるのも、躊躇うくらいだったのよ
奏
あ……
奏の祖母
けれど、今は——
お母さんのことで、そんな表情ができるようになったものね
お母さんのことで、そんな表情ができるようになったものね
奏の祖母
だから……よかったわ
奏
おばあちゃん……
奏
……心配かけて、ごめん
奏
……きっと、わたしが変われたのは——
みんなのおかげだな
みんなのおかげだな
奏の祖母
サークルで、一緒に音楽を作っているっていうお友達?
奏
うん。音楽を作るのもそうだけど、
それ以外でも支えられてるって思うんだ
それ以外でも支えられてるって思うんだ
奏
あんまり無理すると、怒られたりもするし……
奏の祖母
ふふ、いいお友達を持ったのね
奏の祖母
それじゃあ、最近の奏ちゃんのことも
お母さんに話してあげましょう
お母さんに話してあげましょう
奏
……わかった
奏
(……お母さん)
奏
(そっちで、どんな風に過ごしてるのかな)
奏
(わたしは元気だよ。
……この前ちょっとだけ、倒れちゃったけど)
……この前ちょっとだけ、倒れちゃったけど)
奏
(あれからは、ちゃんと気をつけてるんだ。
みんなを心配させちゃったし)
みんなを心配させちゃったし)
奏
(だから、お母さんも安心してね)
奏
…………
奏
(……昔は……)
奏
(昔は、お母さんのこと、思い出さないようにしてたんだ)
奏
(優しい記憶を思い出すと、つらくて——
そのまま、動けなくなりそうで)
そのまま、動けなくなりそうで)
奏
(でも、今は……ちょっとずつ思い出せてるんだよ)
奏
(お父さんの誕生日に、一緒にサプライズパーティーしたよね。
お母さんが作ってくれたケーキ、すごくおいしかったな)
お母さんが作ってくれたケーキ、すごくおいしかったな)
奏
(それに……絵本を読んでくれた時のことも。
お母さんの優しい声、すごく好きだった)
お母さんの優しい声、すごく好きだった)
奏
(わたしにごはんの作り方を教えてくれたりもしたよね。
あの時のあったかい匂いも、なんだか思い出せる気がする)
あの時のあったかい匂いも、なんだか思い出せる気がする)
奏
(それに————)
奏の母
——ねえ、奏
奏の母
いつまでも、幸せでいてね
奏の母
お母さんは、先に眠ってしまうけれど……
ずっと、奏のそばにいるから
ずっと、奏のそばにいるから
奏の母
だから……さみしく思わないで
奏の母
ずっと、ずっと……奏のことを想っているからね
幼い奏
おかあ、さん……?
奏
(……お母さんは、最後まで
わたしの幸せを願ってくれてたよね)
わたしの幸せを願ってくれてたよね)
奏
(いなくなったあとも、幸せな毎日を過ごせるようにって)
奏
(……お母さんの言葉は今でもずっと、私の宝物だよ)
奏の祖母
——さあ、そろそろ帰りましょうか
奏の祖母
奏ちゃん、お菓子は半分こしましょう。
何かほしいものはある?
何かほしいものはある?
奏
あ……じゃあ、おまんじゅう貰おうかな
奏の祖母
ふふ、それじゃあ全部あげるわね。
お友達と一緒に食べてちょうだい
お友達と一緒に食べてちょうだい
奏
……うん
奏
——今日は、本当に来れてよかったな
奏
おばあちゃん、声をかけてくれてありがとう
奏の祖母
おばあちゃんも、一緒にお墓参りできてよかったわ
奏の祖母
……ひとりにしてごめんなさいね。
私の体のことがなければ、一緒に暮らせるのに
私の体のことがなければ、一緒に暮らせるのに
奏
ううん、大丈夫。
いつも電話してくれてるし、さみしくないよ
いつも電話してくれてるし、さみしくないよ
奏
……ありがとう
奏の祖母
ふふ。帰ったら、また曲作りをするの?
奏
……うん
奏
(作らなきゃいけない、けど……)
奏の祖母
……奏ちゃん、どうしたの?
奏
え?
奏の祖母
すごく難しい顔をしていたから。
……何か悩みでもあるの?
……何か悩みでもあるの?
奏
あ……
奏
…………友達の、ことなんだけど
Next Chapter: 愛しているから