1
スレイド
——すごいなあ、トーヤ。
本当に、あれだけでわかっちゃったんだ
2
セドリック
ああ——
3
セドリック
冬弥の想像通りだ
4
冬弥
ということは、やはり……
5
スレイド
うん。オレ……右耳が聞こえてないんだ
6
冬弥
そうか——
7
冬弥
今まで、まったく気づかなかった
8
冬弥
……すまない
9
スレイド
こっちこそごめん! 気を遣わせちゃって
10
セドリック
それに、いきなり連れ出すことになって悪かった。
エレナやベッキーにも……このことは言っていないんだ
11
冬弥
そうなのか?
12
スレイド
普段は全然平気だしね。
左耳は聞こえてるから、会話が聞き取れないってことはないし
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スレイド
でも、賑やかな場所だと集中して聞かなきゃいけなくてさ。
気を抜いてると、聞き逃しちゃうこともあるんだ
14
スレイド
さっきの子——エマも、そんな感じで
無視したみたいになっちゃったことがあって。
それで、耳のことを説明したんだ
15
冬弥
…………
16
冬弥
(耳を酷使する分、聴力に問題を抱えて
苦しむ音楽家やミュージシャンは多いと聞く)
17
冬弥
(だが、まさかスレイドが……)
18
セドリック
………………
19
スレイド
だから、気にしないでほしいな。
……って言っても、難しいか
20
スレイド
でも、本当に平気だよ。
こうなってから結構経つし、もう慣れちゃったしさ
21
冬弥
慣れる……ということは、生まれつきではないのか?
22
セドリック
——ああ
23
セドリック
聞こえなくなったのは……俺のせいなんだ
24
スレイド
セディ……
25
冬弥
それは……
26
セドリック
昔……俺がひとりで街を歩いているとき、
柄の悪い連中に絡まれたことがあるんだ
27
セドリック
相手の虫の居所が悪かったのか、散々に殴られて……
それを、駆け付けたスレイドが助けようとした
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スレイド
………………っ
29
セドリック
俺を庇って殴られて……倒れたとき、頭を強く打ったんだ
30
冬弥
頭を……
31
セドリック
幸い、通りかかった人が通報してくれたおかげで
命に関わる怪我はなかった。だが——
32
セドリック
その時からだ。
こいつの右耳が聞こえなくなったのは
33
冬弥
…………!
34
スレイド
あれは、セディのせいじゃないってば!
35
スレイド
殴ったほうが悪いに決まってるし……
耳のことは、運が悪かったんだよ
36
セドリック
俺は、そうは思えない
37
セドリック
……運が悪いなんて言葉で、片付けて堪るか
38
冬弥
(セドリックが、こんなにも感情を露わにするのを
初めて見た気がする)
39
冬弥
(だが——)
40
冬弥
……俺も、同じ気持ちだ
41
スレイド
トーヤ……
42
冬弥
……すまない。
上手く言葉がまとまらないが……
43
冬弥
起きていいことではないはずだ
44
スレイド
……ありがと。
オレ達のために、怒ってくれてるんだよな
45
スレイド
でも、ほんとにもう平気なんだ。
だから、トーヤもこのことは気にしないで
46
スレイド
いや……ちょっと違うかな。
オレが、気にしてほしくないんだ
47
冬弥
どういうことだ?
48
スレイド
だってステージの上では、本気でぶつかりたいだろ
49
スレイド
——オレ達、ライバルなんだからさ
50
スレイド
トーヤは優しいから、きっと……オレに気を遣っちゃうと思う
51
スレイド
だけど、オレは——嫌なんだ。
本気で戦いたい相手に、気を遣われるのは
52
スレイド
……今までも、そういうことはあったから
53
ミュージシャンA
『——聞いたか? スレイドの噂……』
54
ミュージシャンB
『ああ……気の毒にな。
俺達も、次のイベントの曲は
あいつらがやりやすいように調整するか』
55
対戦相手A
『スレイド、あんま無理すんなよ』
56
対戦相手A
『片耳が聴こえないと、前と同じように
音は取れないだろ?』
57
対戦相手B
『その……いろいろ、大変だったな』
58
対戦相手B
『もし何かあったら、その分俺達が盛り返すからさ。
あんまり気負わないで歌ってよ』
59
スレイド
相手に悪気がないのは、わかってるよ。
本気で心配してくれてるってことも
60
スレイド
それでも……優しさも、気遣いも、オレは欲しくないんだ
61
スレイド
全力で歌うトーヤ達を超えて、世界を獲りたい。
そうじゃなきゃ……意味がないって思うから
62
冬弥
(たしかに……今のまま対戦したら、
俺もスレイドの耳のことを——意識したかもしれない)
63
冬弥
(しかし……)
64
冬弥
……そうだな。
もし俺が、スレイドと同じ立場なら——
65
冬弥
きっと、同じように考えると思う
66
セドリック
冬弥……
67
冬弥
——話してくれて、感謝している。
全力でぶつかりたいと言ってくれたことも
68
冬弥
RUSH BEATSでは、
互角のライバルとしてステージに立つ。
……そうあれるように、努力しよう
69
セドリック
……ありがとう、冬弥
70
スレイド
あと……今の話、他のみんなには
内緒にしてもらってもいいかな?
71
スレイド
無理に隠したいわけじゃないんだけど、
やっぱり気は遣っちゃいそうだからさ
72
冬弥
ああ、わかった。約束しよう
73
スレイド
——じゃあ、RUSH BEATSでぶつかったときは
よろしく!
74
スレイド
全力で、トーヤ達に勝ちにいくからさ
75
冬弥
……こちらこそ、よろしく