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KAITO
ごめんね、ひとりだけ残ってもらっちゃって……
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冬弥
いえ、このあとは特に予定もなかったので
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冬弥
何か、みんなの前ではしづらい話でしょうか?
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KAITO
うん……
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KAITO
——実は、冬弥くんに謝らないといけないことがあるんだ
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冬弥
謝る……?
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KAITO
みんなの様子を見に、冬弥くんの
スマホに遊びに行ったとき——
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KAITO
聞いちゃったんだ。
冬弥くんと、スレイドくん達が3人で話してたこと
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KAITO
……本当にごめんね
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KAITO
ちゃんと謝りたかったんだけど、
なかなかチャンスがなくて……
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冬弥
……いえ。
事故のようなものだと思うので
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冬弥
ただ、他のみんなには——
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KAITO
もちろん、言わないよ!
冬弥くんも約束してたしね
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冬弥
ありがとうございます
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KAITO
やっと言えてよかったよ。
ずっと申し訳ない気持ちでいっぱいだったから
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KAITO
なんだか様子がおかしいって、
メイコとかミクにも怪しまれてたんだよね
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冬弥
そうだったんですか?
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KAITO
うん。『カイト、もしかして何かつまみ食いした?』
『誰のか知らないけど、早く謝ったほうがいいよ』って
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冬弥
……すみません。気に病ませてしまって
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KAITO
あはは、冬弥くんが謝るところじゃないよ。
ボクの不注意のせいだしね
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KAITO
でも……今日の練習を見て、安心したな
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冬弥
え?
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KAITO
もし冬弥くんが、そのことで何か悩んでたら——って。
ちょっとだけ心配してたんだ
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KAITO
みんなに内緒にしてる分、
誰にも相談できてないんじゃないかなって
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KAITO
けど、悩むどころか、すっごく調子がよさそうだったから
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冬弥
……そうですね
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冬弥
予定よりも早くEmbersと戦えることが楽しみなんです
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冬弥
以前聴いた彼らの歌は、本当に熱くて……
ずっと対戦したいと思っていたので
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冬弥
それに……
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KAITO
それに?
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冬弥
偶然とはいえ、彼らの事情を知ってしまった俺に——
スレイド達は、まっすぐに向き合って話をしてくれました
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冬弥
ライバルとして、ただ純粋に歌で勝負したいと
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冬弥
それに足る相手だと、
信頼を寄せてもらえたことが……何より嬉しいと思いました
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KAITO
冬弥くん……
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冬弥
その信頼に応えるためにも、全力でぶつかりたい
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冬弥
今はただ、少しでも早くイベントで歌いたくて仕方ないんです
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KAITO
——ふふ、そっか! 冬弥くんらしいな
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冬弥
俺らしい?
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KAITO
うん。優しくて——まっすぐなところ
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KAITO
でも、楽しみなのはわかるけど
頑張りすぎはダメだからね?
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KAITO
慣れないアメリカでイベントに出て、
練習もやって……って絶対疲れが溜まってるはずだから
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冬弥
はい、そこは気をつけようと思います
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KAITO
うん、オッケー!
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KAITO
……それじゃあ、引き止めちゃってごめんね!
みんなのところへ行こっか
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冬弥
そうですね——……っ
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冬弥
(……なんだ?)
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冬弥
(今、一瞬足元が……)
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KAITO
……冬弥くん?
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冬弥
大丈夫です。
一瞬、ふらついただけで……
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KAITO
それ、大丈夫って言わないよ!?
さっきも言ったけど、無理はダメだからね?
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冬弥
はい……。
少し体が重いので、今日は早く休むことにします
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冬弥
(……少し、根を詰めすぎただろうか)
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冬弥
(イベントまでに治さなくては。
全力で挑むためにも——)
COUNT X 当日
ホテル ロビー
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彰人
——杏とこはねは、まだ来てねえみたいだな
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冬弥
迎えの車が到着するまで……あと20分くらいか。
もう少し待ってみよう
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彰人
だな。まだ焦るような時間でもねえし
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彰人
それにしても、ついにあいつらと対戦か。
今日まであっという間だったな
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冬弥
ああ、ようやく——……っ
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彰人
冬弥?
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冬弥
……ああ、いや。
ようやくこの日が来たと思ったんだ
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冬弥
本当に……楽しみだな
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彰人
なんかおかしいとは思ってたが……
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彰人
——冬弥。お前、調子崩してるだろ
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冬弥
…………っ
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冬弥
(できる限り、普段通りに振舞っていたつもりだが……)
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冬弥
……喉の調子は問題ない
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冬弥
ただ、昨夜から頭がぼんやりして…………恐らく発熱している
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彰人
風邪かなんかか?
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冬弥
いや——念のため病院で診てもらったんだが、
感染症ではないそうだ
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冬弥
恐らく、ただの疲労だと思う
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冬弥
子供の頃……ピアノの練習で疲れが溜まって、
こんなふうに熱を出したことがあるんだ
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冬弥
……すまない。イベント当日だというのに
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彰人
馬鹿。謝らせたいわけじゃねえの、わかるだろ
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冬弥
…………
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彰人
けど……本当に大丈夫なのかよ
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冬弥
本来なら……無理せず休むべきだというのはわかっている
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冬弥
今の状態では、普段通りのパフォーマンスは
出せないだろうことも
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彰人
そこまでわかってんなら——
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冬弥
わかっていても、歌いたいんだ
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冬弥
……Embersと戦うのを、ずっと楽しみにしていた
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冬弥
彰人なら、この機会をみすみす逃せるか?
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冬弥
俺は——絶対に、後悔する
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彰人
冬弥……
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冬弥
チームに迷惑はかけない。
今できる限り、全力で歌う
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冬弥
だから——頼む
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冬弥
俺も一緒に、歌わせてくれ
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彰人
…………
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彰人
…………はぁ。わかった、好きにしろよ
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冬弥
彰人……
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彰人
全然大丈夫そうじゃねえけど、お前がそこまで粘るんだ。
なんか、譲れねえもんがあるんだろ
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冬弥
……っ、すまない……
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彰人
だから謝るなって
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彰人
けど——無理だと思ったら、その時は止めるからな
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冬弥
……わかった。
そのときは、従うと約束する
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冬弥
ありがとう、彰人
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彰人
おう
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彰人
——フロントで、なんか冷やすもんもらってくる。
杏達にはオレから説明するから、
本番まではできる限り体力温存しとけ
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冬弥
……ああ
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