テレビ局
愛莉
(——いよいよ、今日が本読み)
愛莉
(出演者で台本を読み合わせて、
監督や演出家と演技の方向性をすり合わせるのよね)
監督や演出家と演技の方向性をすり合わせるのよね)
愛莉
(今まで出演したドラマだと、
ここまで本格的にやることがなかったから、
ちょっと緊張するけど——)
ここまで本格的にやることがなかったから、
ちょっと緊張するけど——)
愛莉
……どんな仕事も、まずは明るい笑顔からよね
リハーサル室
愛莉
おはようございます!
本日はよろしくお願いします
本日はよろしくお願いします
監督
ああ、桃井さん!
おはようございます
おはようございます
スタッフ
おはようございまーす!
お荷物、こちらの机へどうぞ!
お荷物、こちらの机へどうぞ!
愛莉
ありがとうございます
愛莉
(この前の衣装合わせで、
主なスタッフさんとは顔を合わせたけど……
やっぱり明るくて、雰囲気のいい現場ね)
主なスタッフさんとは顔を合わせたけど……
やっぱり明るくて、雰囲気のいい現場ね)
愛莉
(バラエティなんかでも、現場の空気が悪いと
お互いに信頼関係が作れなくて、
結果的に作品の質が落ちたりするけど——)
お互いに信頼関係が作れなくて、
結果的に作品の質が落ちたりするけど——)
愛莉
(きっと、全員のプロ意識が高いんだわ)
愛莉
(……わたしも、ちゃんと応えられるようにしないと)
???
——おはようございます
スタッフ
おはようございます、真緒さん!
前の現場以来ですね。
今回も、よろしくお願いします
前の現場以来ですね。
今回も、よろしくお願いします
真緒
こちらこそ、よろしくお願いします
愛莉
(あれって、夏生役の俳優さんよね。
たしか、名前は——佐原真緒さん)
たしか、名前は——佐原真緒さん)
愛莉
(佐原さんは、わたしと同い年だけど……
昔から子役として活動してるし、遥かに大ベテランだわ)
昔から子役として活動してるし、遥かに大ベテランだわ)
愛莉
(衣装合わせの時は
スケジュールの都合で会えなかったけど、今なら挨拶できそうね)
スケジュールの都合で会えなかったけど、今なら挨拶できそうね)
愛莉
おはようございます!
ミチル役の、桃井愛莉といいます
ミチル役の、桃井愛莉といいます
真緒
あ……
真緒
……夏生役の、佐原真緒です
真緒
桃井さんのこと、前に街頭スクリーンで見かけました。
たしか、LUMINAグランプリに出てらっしゃるんですよね
たしか、LUMINAグランプリに出てらっしゃるんですよね
愛莉
……! はい!
覚えていてもらえて嬉しいです
覚えていてもらえて嬉しいです
愛莉
演技の経験が浅くて、ご迷惑を
おかけすることもあるかと思うんですが……
おかけすることもあるかと思うんですが……
愛莉
精一杯頑張るので、どうぞよろしくお願いします!
真緒
……こちらこそ、よろしくお願いします
愛莉
(佐原さんは、雑誌やテレビでも実力派俳優として
名前が上がるプロ……)
名前が上がるプロ……)
愛莉
(胸を借りるつもりで、頑張らなくちゃ!)
助監督
——それでは、全員揃ったので本読み始めていきます
役者達
『よろしくお願いします』
助監督
本読みは今回が初めての方もいると思うので、
軽く説明しておくと……この場では、演出だったり
細かい設定なんかをみんなですり合わせていきます
軽く説明しておくと……この場では、演出だったり
細かい設定なんかをみんなですり合わせていきます
監督
なので、何か疑問があったら遠慮なく質問してください。
演出面の提案なんかも、大歓迎です
演出面の提案なんかも、大歓迎です
愛莉
(……台本と、原作の漫画を読み込んで、
今日まで役作りしてきた)
今日まで役作りしてきた)
愛莉
(ミチルの気持ちも……全部共感できるわけじゃないけど、
自分なりに落とし込めたと思う)
自分なりに落とし込めたと思う)
愛莉
(それに……)
司
——役作りの方法?
愛莉
ええ。仕事に関することだから、
詳しくは説明できないんだけど……
詳しくは説明できないんだけど……
愛莉
気が弱くて、自分の思ってることを上手く言えない——
そんな女の子を演じられるようになりたいの
そんな女の子を演じられるようになりたいの
愛莉
わたしが知ってる限りだと、
演技については、ふたりが一番詳しそうだと思って
演技については、ふたりが一番詳しそうだと思って
寧々
なるほど……そういうことだったんですね
司
いい目の付け所だ、桃井愛莉!
司
自分とタイプの違う役柄を演じるために、
オレも苦しんだことがあるからな。
それなりに実のあるアドバイスができるはずだ!
オレも苦しんだことがあるからな。
それなりに実のあるアドバイスができるはずだ!
寧々
……わたしも、参考になりそうな作品とか、
俳優さんの演技にいくつか心当たりがあるので
あとで送りますね
俳優さんの演技にいくつか心当たりがあるので
あとで送りますね
愛莉
助かるわ! ふたりとも、ありがとう!
愛莉
(……天馬くんと草薙さんから貰ったアドバイスで、
ミチルらしい振る舞いも少しずつわかってきた)
ミチルらしい振る舞いも少しずつわかってきた)
愛莉
(あとは監督達や他の俳優さんの意見を聞いて、
自分のものにしていかなくちゃ……!)
自分のものにしていかなくちゃ……!)
監督
じゃあ、まずは頭の夏生のセリフから行きましょうか
真緒
——はい
真緒
『……あーあ。
なんで、あんな家に帰らなきゃいけないんだろ』
なんで、あんな家に帰らなきゃいけないんだろ』
真緒
『どうせ誰も、アタシのことなんか見てないくせに』
真緒
『……ほんと、つまんない』
愛莉
(……すごい……)
愛莉
(椅子に座ったまま、セリフを読んでるだけなのに……
ちゃんと『夏生』に見える)
ちゃんと『夏生』に見える)
愛莉
(それに今、夏生がどんな気持ちでいるのかが、
伝わってきて……)
伝わってきて……)
同級生役の俳優
『夏生、今帰り?
今からみんなでカラオケ行くけど、どう?』
今からみんなでカラオケ行くけど、どう?』
真緒
『……行こっかな。メンバー誰?』
同級生役の俳優
『やった!
メンバーはゆっことリサと、あと——あ』
メンバーはゆっことリサと、あと——あ』
愛莉
『……っ!』
同級生役の俳優
『ミチルちゃんじゃーん。
うちらと一緒に行く? カ・ラ・オ・ケ』
うちらと一緒に行く? カ・ラ・オ・ケ』
愛莉
『え……えっと、わたしは……』
真緒
『やめなよ。
しゃべるだけでこんななのに、歌えるわけないじゃん』
しゃべるだけでこんななのに、歌えるわけないじゃん』
同級生役の俳優
『あはは、それもそっか!』
監督
……全体的にいい感じですね。
夏生に関しては、今の温度感そのままで
もう少しイライラをにじませてもらえると良さそうです
夏生に関しては、今の温度感そのままで
もう少しイライラをにじませてもらえると良さそうです
真緒
わかりました
監督
あと、ミチルについては……
監督
演技の方向性自体は合ってます。
ただ……全体的に、まだ『強い』かなと
ただ……全体的に、まだ『強い』かなと
愛莉
強い……
監督
そうですね、芯の強さがにじんでるっていうか……
序盤はミチルのキャラ性を印象付けたいので、
もっと弱弱しい感じで演じてもらえるといいかなと
序盤はミチルのキャラ性を印象付けたいので、
もっと弱弱しい感じで演じてもらえるといいかなと
愛莉
(今のでも、かなり弱弱しさを意識したつもりだったけど……)
愛莉
……わかりました。やってみます
真緒
『——何、これ。アタシ今、金ないんだけど』
店主役の俳優
『このコーヒーとクッキーは、サービスです。
あなたは、僕好みの“謎”を提供してくれそうなので』
あなたは、僕好みの“謎”を提供してくれそうなので』
真緒
『はあ? 謎?』
愛莉
(佐原さん……やっぱり、すごく上手だわ)
愛莉
(ちょっとした声のトーンだったり、
表情の作り方も自然で……)
表情の作り方も自然で……)
愛莉
『……ごめんね、夏生ちゃん……』
愛莉
『わたし、いつも……何もできなくて……』
監督
…………。
うん、さっきよりだいぶ良くなったと思います
うん、さっきよりだいぶ良くなったと思います
監督
けど、まだ演技の奥に、桃井さんが透けて見えるっていうか……
『桃井愛莉の演じるミチル』になってしまっているかなと
『桃井愛莉の演じるミチル』になってしまっているかなと
愛莉
(桃井愛莉の演じる、ミチル……)
愛莉
すみません、もう一度やらせてください!
大御所男性俳優
……それ、今やる必要ある?
愛莉
え……
大御所男性俳優
改善点は分かったんだから、先に進ませてくれない?
大御所男性俳優
ここは、演技の学校じゃないんだからさ
愛莉
…………!
愛莉
……はい、すみません
監督
……それでは、次のシーンに行きますね
真緒
…………
愛莉の声
お疲れ様でした! お先に失礼します
愛莉
(結局、最後まで……圧倒されっぱなしだったわ)
愛莉
(わかってたことではあるけど……
他の俳優さんの演技も、わたしとは比べ物にならない)
他の俳優さんの演技も、わたしとは比べ物にならない)
愛莉
……でも、落ち込んでる場合じゃないわ
愛莉
本番までに、なんとか巻き返さなきゃ……!
真緒
——そこまで肩ひじ張らなくていいと思いますよ
愛莉
え……?
真緒
すみません。
帰りがけに、偶々聞こえたので
帰りがけに、偶々聞こえたので
愛莉
佐原さん……
真緒
私、似たような人をたくさん見てきたんです。
皆さん、気合いを入れるほど空回っちゃって
皆さん、気合いを入れるほど空回っちゃって
真緒
それに——みんな、がっかりしたりはしないと思います
真緒
アイドルがいきなり、他の役者と同じように
演技できるなんて思うほうがおかしいので
演技できるなんて思うほうがおかしいので
愛莉
な…………
真緒
それじゃあ、お疲れ様でした
愛莉
……何よ、あれ……
Next Chapter: 今の自分にできること